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第十二話 俺なんかよりよっぽど爽やかなヒーロー

「オラも道を真っ直ぐ歩いとったんじゃよ。したら、なんらデッカいゴリラに襲われとる人間がおったから、助けたまでじゃ」


「タイミング的にはどうみてもヒーローだったよ。ありがとう」

「ホントにありがとう、風見(かざみ)くん」


 まだ体は辛いが時間もそれなりに経っているから、止まるのは適当ではない。ゆっくりでもいいから先へと進むことを俺たちは選択した。


 その合間、俺と月雪はひたすらに窮地を救ってくれた恩人であり、同じクラスの仲間でもある風見(かざみ) 晴太(せいた)へお礼を言っていた。


 筋肉質な体だが、線はそこまで太くない。いわゆるボクサータイプの体つきと、女の子なら誰でも振り向いてしまいそうな完成された目鼻立ちはイケメンという語源なのではないかと思えるほどだ。


 男の俺から見ても、非常に整ったパーツとバランスを持った人間であると思う。髪型も少し流した前髪にサイドやバックも適当な感じで跳ね上げられていた好青年らしいもので、口調さえなんとかなればきっともっと上の段階にいけるのではないだろうか。


「しかし、傍に倒れとったちっこい子ゴリラは、お前さんが倒したんか?」

「あぁ、一応ね」

「やりおるのう。気性の荒いヤツじゃから、お前さんくらいの成績の生徒なら、普通は逃げ出す、っちゅう選択肢を取るんじゃがな」

「最初は逃げたんだけどね。逃げ切れなかったから反撃したまでだよ」

「そうなんか? お前さん、運動神経は悪くないほうじゃったろ? アイアンコンガくらいならチョロいんじゃないかの?」

「そうだけど……」

「あぁ、そういえば月雪もおったかいの。なんじゃ、つまりは守るために戦ったっちゅうことか?」

「いや、まぁそういうわけでもあるんだけど……」

「憎いのぅ、色男め」


 肘でつんつんしてくるのは悪い気はしないが、いかんせん彼の言動や行動は古めかしい。

 本人の話では、遠くの寒村出身だそうで、たまたまこの学校を受けたらご存知の通り特殊な学校で、これは面白いと入学を決意したそうだ。


 風見の住んでいた村は老人率九割の環境だったらしく、この口調で育てられたためジジ臭い喋り方になってしまうらしい。村から降りてきて一番に驚いたことはみんなの遣う言葉だったそうだ。


「そういう風見だって、一太刀で親コンガ倒すなんて相当じゃないか」

「オラはそれが目標で来てるようなもんじゃからの。知能すら持たん獣相手にゃそうそう負けんよ」


 と、腰に下げた木刀を見せつけながら『刀剣使い(スサノオ)』の二つ名を持つ少年は語る。これでアイアンコンガを倒したのだが、そのまま振るったわけではない。あれはどう見ても鈍器の切れ味ではないからな。


 彼の学籍番号は『83番』で魔法タイプは強化だが、肉体への魔法干渉は全くしていないらしい。


 最初に校則を知ったとき、彼は自らが幼き頃より培った『風見流』という我流剣術でどこまで成りあがれるかを試してみたかったそうだ。本気を出す時のみ、木刀を物質変化させて真剣へと進化させているんだとか。


 つまり彼が、この二桁までのし上がった成績は間違いなく本物。自然豊かな土地で育ったが故の、桁外れの身体能力のみで手に入れた実力の証だ。


「しっかし、月雪がアイアンコンガ如きに敵わんとは驚きじゃのう」

「以前までならあんなの目を瞑ってても倒せたんだろうけどね……」

「まぁ、やっちゃったもんは仕方ないからの。これから頑張ればなんとかなるはずじゃ。天神だって頑張ってくれとるんじゃろ?」

「……うん」


 ううむ。なんだろう、この異様な爽やかさ。

 傍から見れば慣れなれしく肩を叩いたり、いきなり月雪を呼び捨てにしているというのに全然いやらしさを覚えない。心なしか、月雪も嬉しそうに見えるし……。二人の距離が近いから会話はあまり聞こえてこないが、楽しげではある。


「オラは田舎もんじゃからこういう地形には慣れておるんじゃがの、方向感覚に関してはからっきしでの。知誰かと一緒ならいつかはゴールに行けるんじゃないかと、ずっと人を探しとったんよ」


 からから笑う風見を尻目に俺は歩く。


「ちゅうわけで、ナビゲートよろしくの、天神!」


 偉そうなんだけど……くそう、かっこいいなコイツ。男なのに、うっかりときめいてしまいそうだ。


「……あぁ、任しときな。ただし、ゴールが見えた時点でガチンコ勝負だからな!」

「おぉ! 望むところじゃ!」


 親指を立てあい、俺たちは前へと進む。

 風見が性格のいいヤツでよかった。そして方向音痴でよかった。


 もしも別のヤツであれば、手を差し伸べるなんてことせずその場で切り捨てられた可能性もあるからな。

 実力的に考えれば、もう魔法生物はそう怖くはないだろう。二桁レベルの彼が傍に居れば、きっと負けることはないはずだ。


 後はひたすらゴールを目指すだけ。色々な場所で時間を食ってしまったが、まだ希望はある。

 少しでもいい。たくさんの魔評点を稼いで、もっともっと強くならなきゃ。


 結果的には助かったとはいえ、一人でもなんとか戦闘がこなせるようになるには、やはり魔力がもっともっと必要なんだ。


 そのために、一人でも早く先にゴールへ!



「天神か。到着時間は二時十七分五一秒。到着順位、89番……と。」


 担任教諭がサラサラとクリップボードに挟まれた俺の成績表に中間考査の結果を書き込んでいく。紙はないのに、ペンを動かすだけで自在に生徒の情報が流れるのは驚きのシステム……魔法だ。


 ちなみに二年生の総生徒数は俺を含めて九十八人いる。つまりは下から数えて十番目という何とも残念な結果に終わってしまった。更に言ってしまえば、リタイアした者より順位が上というだけ。ゴールできたから良かったね、ってレベルだ。


「初のテストとはいえ、想像していたより悪くない結果だったな」

「……先生は俺がどれだけ出来損ないとお考えで?」

「てっきりリタイアかと思ってたんだがな、やるじゃないか。これからも頑張れよ」


 なんて不名誉極まりない賞賛なんだ。


 結局あれから、何度も何度も危機に瀕した。

 激流の川を、絶壁に近い崖を、毒液を滴らせる大蛇と戦闘を繰り広げた。


 そのどれも、正直に言ってしまえば俺だけならばギリギリすんなりと潜り抜けられたと思ってる。

 大蛇は風見が居なかったら危なかったかもしれないが、道中の障害物は何もかも問題はなかったんだ。


 でも、俺には月雪がいた。

 あ、ここだけ抽出するとまるで彼女みたいな響きだな。……おっと、それは置いておいておいてだね。


 ともかく、そんな過激な障害物を女の子が容易にクリアなんかできるわけがない。もしも、月雪が一桁の時と同じ魔法使いだったらむしろそこはスムーズに抜けられたのだろうが、普通の女の子がクリアできるレベルの内容じゃなかったのは確かだ。


 故に、方角的に迷うことはなかったけれどもその途中で時間を食いすぎてしまいこの結果というわけだ。


 ちなみに風見は、方角は合ってるという話をすると、途中で先に駆け出してしまった。仲良しこよし精神じゃないのは嫌いじゃないけど、酷いといえば酷い措置だ。


 いや、でも助けてもらって、更には敵も倒してくれたのだから感謝すべきか。タイミングが悪ければ俺たちは既にリタイアしていたんだろうから。


「お前さんらもやっとゴールしたかい」


 若干不服そうな顔をして校舎に戻ろうとした俺を、風見が呼び止める。

 返り血や傷は既に綺麗さっぱりなくなっている。


 通常の魔法訓練の中で、負ってしまった傷や疲労感は若干、体に残るようになっていた。試験中や番号入替決闘(オルターバトル)での大怪我や死亡の場合は、実際でもそうならないような工夫がされているが、それでもフィードバックはされてしまうそうだ。


 なので、例えば番号入替決闘(オルターバトル)で相手を勢い余って本当に殺してしまった場合でも決して現実で亡くなるということにはならない。

 逆に言ってしまえば、バトル外でそういった行為をした場合……その結果がどうなってしまうのかは想像つくだろう。だから、選定はしっかりと、と校長先生は口が酸っぱくなるほど言っているそうな。


 今回は先生がしっかり監視の下に行っているので、終了後に保険医の先生によって微妙に残った疲労や汚れも含めて全て元通りにしてもらうことができた。


「俺と月雪は89番だったよ。お前は?」

「オラは51番じゃった。お前さんらに出会わなかったらもっと遅かったかもしれんから感謝しとるよ」


 差し出された手を俺は握り返す。月雪がモタモタしているのを、ある程度まで付き合ってくれた上にこの発言だから、やはり出来た人間だコイツは。


「……」


 月雪は結果が出てからずっとだんまりを決め込んでいる。表情は無く、視線を水平よりやや下げたまま一点を見つめているという感じだ。やはり、ショックなのだろう。


 いくら処罰とはいえ、少し前までは学園屈指の魔法使いだったというのに、ちょっとした勘違いで、今や中間テストでも学籍番号でも、下から数えたほうが早いときたもんだ。レース中、彼女は何度も『いつもなら、もっと』という言葉を吐いていた。思うようにいかないというイライラも溜まっていることだろう。


「月雪」


 俺が呼ぶと、ゆっくり目を上へと向けて顔を見てくる。ガラス玉のような瞳はいつもより輝いては見えない。


「ごめんな、こんな順位で」

「え……?」

「もうちょっと俺がマシな魔法使いだったら、少しは良かったんだろうけど……これが今の俺の実力なんだ。ホントにごめん」


 俺は頭を下げて謝る。


 一人なら一人なら、というが彼女が居なければ俺はそもそも特進科(ここ)に居ることはない。少し不満はあるけど、魔法が存在する世界はやっぱり楽しいから受動的だったとはいえ嬉しいことなんだよ。

 たらればという言葉は好かないけど、俺が別の魔法タイプならあの月雪がパートナーなんだから苦労することはなかったのだろう。素質の問題とはいえ、今回のテストで四苦八苦してしまったのは俺にも十分原因はある。


「時間はかけるつもりはない。だから、もう少しだけ待ってくれないか?」

「……」


 とりあえず機嫌を直してくれないかな。怒っているような姿は見慣れているとはいえ、好きにはなれないよ、やっぱり。


「……私が不満なのはそういうことじゃないの」

「?」


 あんたがもっとマシなら良かったのに、って怒ってるんじゃないの?


「違うわよ」

「じゃあ、パートナーが出来るなら風見のようなイケメンがよかったとか?」

「だから違うって! ばか! もういいから放っておいて!」


 なんとか気持ちを汲み取ろうとしたがダメだった。結局はまた怒らせてしまい、月雪はツカツカと校舎内へと戻ってしまった。


「なはは。天神、お前さん見かけによらずバカじゃのう」


 事の顛末を傍で見ていた風見が笑いながら肩を組んでくる。

 通常科目のテストはかなり出来たほうだぜ。あれで高校二年生のテストって方がビックリするくらいの問題ばかりだったぞ。言っちゃ悪いが、そこら辺を歩いている奴らよりはいい成績を残せる自信はあるんだが。


「そういう紙の上での出来事を言っとるんじゃないんじゃ」

「じゃあ何だよ?」

「あえて詳しくは言わんが、オラでさえ簡単にわかるようなことが、お前さんにはわかっとらんちゅうことじゃ」

「ますます意味不明だな」

「はぁ……わかるように言ってやろうかの。つまりは、月雪はお前さんに対してなんら不服があったわけじゃなくて、自分自身が許せなかったんじゃろう」

「いや、それくらいは俺でもわかってるよ。ミスして俺と一緒になることになっちゃったのは、あいつ自身の責任だって理解してるはずだ」

「か~……ホントにわかっとらんのう。それはまた別の理由じゃよ。機嫌が悪い理由とは違うに決まっとるわい」


 何が言いたいんだよ。もうこの際バカでもいいからわかるように言ってくれないか。


「それは自分で考えることじゃよ。否が応でも不即不離なんじゃ、これから付き合っていく上で、理解を深め合うのは大切なことじゃろ? 人に言われて理解しては何の意味ももたんよ」


 ポンッと肩を叩いて風見も校舎へ戻っていく。

 結局、その後一日考えてみたが、理由はわからずじまいだった。

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