力が欲しいか?
「こんな世界糞ったれだ。消えちまえ」
薄暗い薄暗い部屋の中で、ディスプレイを眺めながら肥え太った少年が罵っていた。
「皆、消えてしまえばいいんだ。僕を苛めるクズも、無視する人も、あの話だけ聞いて何にもしてくれない担任のババアも」
彼は酷い苛めに合っている最中で、今日も教科書をトイレの便器に捨てられたり、後ろから画鋲でつつかれたりと陰湿な目に遭っていた。
「もしも僕にも、メギドの呪文が使えればいいのにな」
彼の言うメギドとは、ゲーム『リトルファンタジー』に出てくる攻撃呪文で、目の前のもの全てを消し飛ばすというものである。
彼はゲームが大好きで、謂所重度のオタクであった。
そのため彼の内向的な性格も手伝って、結果、周りから根暗とかオタクと言われ苛められてしまう。
「あ〜ほんと、世界消し飛べ。僕が今やっているネトゲキャラなら余裕で滅ぼせるのに」
現実逃避に妄想に浸りすぎて、彼の心は半分妄想世界へ突っ込んだままになってしまっていた。
『力が…欲しいか?』
「ひぃ、誰? どこにいるの」
突然、頭の中に直接囁くような男の子へと届いた。
『落ち着けって。お前、苛められているんだろ。だから力を貸してやろうというんだ』
「本当なの? 対価に何か持っていくんじゃないのか?」
『そんなものはいらん。お前に力を与えるだけだ』
「だったらその力をくれ。俺を苛めた奴も、助けてくれないやつも皆殺してやる」
『いいだろう。この力は使えばすべてが消し飛ぶ、分かったか?』
謎の声はそう言った切り話しかけてこなくなった。
「この力を使って、明日の学校で復讐してやる」
少年は暗い静かな笑みを浮かべた。
* * * * *
五月二六日、午後一時四三分頃。○○高校で爆発事件がありました。
同高校の二年生の学舎が半壊。中にいた生徒の半数、教員は全員死亡という惨事に見舞われました。
原因は不明ですが、同高校の二年生A(仮名)君が渡り廊下へ向かった後に、爆発が起こったと生存した生徒からの報告があり、現場のA君の遺体の司法解剖結果からの事件との関連性を急いでいます。
A君ですが、以前からいじめを受けていたにも関わらず、学校側の対応が一切なかったとの調査結果が出ており、学園側がいじめが無かったと教育委員会及びPTAに……。
* * * * *
「閻魔さん。これで久々に私たちにも大量に仕事が来ましたよ」
「そうか、よかったな死神。最近は平和だったり、医療の進歩したりで、人が全然死ななくて我々の仕事が来なかったからな」
「そういえば、あの爆発事故起こしてくれたた少年はどうするんですか? 我々に仕事をたくさんくれましたけど」
「ああ、そいつは地獄行きだ。一人で勝手に死ねないで、人様に迷惑かけるような死に方するやつは悪いからな」
「そうですか。実は、私も同じことを思っていたんですよ」
「地上にはまだまだ人は多いし、今度も同じ手でやってみます?」
「いいや、ちょっと趣向を変えよう。今度は――」
この世はまだまだ減る必要があるらしい。




