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隆二

あれから僕はずっと考えていた。

千恵のことを。

一年付き合っていても何も知らなかったんだな。と思うとともに、

本当に住む世界が違ってしまって遠く感じられた。

強い虚脱感があり、

帰る気にもなれずに、涼のアパートの座椅子に座っていた。


僕自身もこれからどうしたいのかわからなかった。



「ええ。ダメでした。ハイ。」

となりのキッチンで涼はケータイで話をしていた。


「今日はこれから昔の連れが来るので、いや・・。ハイ。

・・・解りました。後で連絡します。」


電話が終わるのと同時に僕は涼に話し掛けた。

「しょうがないよな・・。」

「えっ。ああ。」

涼は短く答えた。

何か考えているようだったが、そのことについては何も言わなかった。


「環境の違い。・・・」

僕はひとりごちた。


「ところで、お前さー。今日リュウジさんが飲み来いって

いってるけど、一緒に行く。?」


涼はもう切り替えたのか?


「いや、俺はそんな気分じゃねーしいいよ。」

「まあな。そうだろうけど、

気分転換に飲むのもいいんじゃねーか。」

確かに記憶をなくすぐらいものすごく飲みたい気分だった。

大暴れしたい。


「ああ。でもいいや。

お前一人でいって来いよ。

俺は帰るよ。」

「そういうなって、すぐ近くだしせっかくだから行こうぜ、な。」

「・・・・・・。」

「どうせ家にいてもやることないんだし、暗くなるぞ。」

珍しく涼が食い下がる。

奴なりの慰めか。


「そうか、そこまで言うなら、でも暗くなってもしらねーよ。」



午後九時。

僕らは夜の上尾の町を歩いていた。

昼間はあまり気が付かないが、結構飲み屋がある。

それにしても

涼は本当に諦めたのだろうか?


紫の看板の前で涼は立ち止まり、

横の階段を二階へ上がっていく。

僕もそれに続く。


クラブジュエリー。

看板にはそう書かれていた。


中に入ると、すぐに声がかかった。

「おおー。涼こっち。」


伊澤隆二だ。


僕も軽く挨拶して涼の横に座る。

店内は狭く、ソファーと酒の置いてあるメタルラックだけだ。


「おつかれっす。」


「お疲れさん。そっちの彼はどっかで見たことあんな。」

「ええ。何度か見たことあると思いますよ。」

涼はにやけた。

「どうも、初めましてではないか、目黒です。」

「!・・・。あっ。あの目黒君か。」

隆二さんは大げさに納得した。

「そうか。昔の連れとか言ってたから、

目黒君のことか。」

「へへ。」

涼は何故か嬉しそうだ。


隆二さんとは二・三度軽く話をしたことがあったが、

こうして話すのは初めてだ。

昔の印象とはだいぶ違う。

もっとも昔は話し掛けずらいオーラバリバリだったけど。

隆二さんは高級そうな

スリーピースのスーツに薄く色の入った眼鏡をしていた。

一見するとヤンエグのように見える。

腕の金ぴかの時計がなければだが、

そのせいで金融屋見えて仕方ない。


「へー。懐かしいね。元気そうじゃない。」

「そうでもないんです。」

「実はこいつ女に振られましてね。」

涼が余計なことを言う。


「何。女に。まあそういうこともあるよな。

今日はどんどん飲んでいいぞ。

いい子もいるし。」


「ハイ。頂きます。」


「そんじゃあ。乾杯すっか。おつかれー。」

隆二さんはテンション高い。


伊澤 隆二。

僕らの三個上だ。狂乱麗舞の三代目頭。

伝説の武闘派として、地元では有名だった。

僕らのチームとは別のチームだったが、

地元が一緒だったので、親交はあった。

二回くらい一緒に走った事もある。

まさかこんな形で再会するとは思わなかった。


涼は暫く隆二さんに仕事の話をしていたが、

僕に気を使ったのか、

次第に話題は昔話になっていった。

キャバクラの会話は一対一になりそうだが、

そこは飲みなれた、隆二さん流石にテーブルでのトーク

を回すのが上手い。


「でも、おまいらの目蒲線コンビはめちゃくちゃだったな。」

「隆二さんほどじゃありませんよ。」

「そうですよ。」


「目蒲線コンビってなんですか?」

涼の隣の女の子が聞いてくる。

「えっ。ああ。こいつが目黒君でこいつが蒲田だから、

そう呼ばれてんだ。」

「こんなとこで、そんな話してもわかりませんよ。」

「へー。私知ってるよ。東急線でしょ。」


「でも、今度もうすぐなくなるらしいですよ。

目蒲線。」

僕は言った。

「えっ。そうなの。」

「なんかさびしいな。」

「そうでもねーよ。俺はあんまその呼ばれ方すきじゃねーし。」

「あはは。そういえばなんかダサいかもね。」

涼は女の娘のダサいという言葉にむっとした。


「そっかそっか。へへ。目黒君もまだ乗ってんのSR?」

「はい。でも2型なんで、寒いし最近かかり悪くて。」

「2型なんだ。まだ、いいじゃねーか。こいつのBX見た?

下品だろ。今時いねーよな。」

「はは。」

「いいじゃないっかー。俺はあれが好きなんです。」

「いねーよ。今時あんな奴。

俺は恥ずかしくてのれないね。」

そういう隆二さんはタケマル仕様のインパルスに乗っていた。

髪の毛もタケマル仕様だった気が・・。


「そういや。憲吾達との時はおまいらいたっけ?」

「ええ。いましたよ。めちゃめちゃ。」


憲吾とは渋谷のチーマーの名前だ。

バットスカルのリーダーだった奴。

チーマーが幅を利かせるようになってから、一時期チーマー対暴走族

みたいな構図ができあがり、族同士連合を組み

大戦争になったことがあった。


「あん時はすごかったな200人はいたな。」

「そうだな。」

「ほんとにー?」

「もっといたんじゃねー。300人くらいは。」

人の武勇伝はこうして大きくなっていく。


「向こうはスプレー缶改造して火炎放射機みてーの持ってるしよ。」

「隆二さんはいつもステゴロでしたしね。」

「ああ。あん時は流石にちょっとビビッたけどな。」


「うちらもいったら大変なことになってましたもん。」

涼が振り返る。

「応援に来いって言われてな。」

「ああ。ただがんばれーとか言ってればいいのかと思ってたら

とんでもねーめにあった。」

「その応援じゃないって。」

僕の隣のホステスが突っ込みを入れる。

ルナちゃん。


「そういやあん時、おまいら目蒲線コンビもがんばってたな。

俺はあれでおまいらを高く認めてんだよ。」

「さっき忘れてたじゃないっかー。」

涼も今日はのりがいい。


僕は隆二さんとはこの一件でひっぱられてから、

あっていない事に気が付いた。

隆二さんにとってこの思い出が青春の最後だったのだろうか?


散々昔話に花を咲かせた後、

話は思わぬ方向へと変わる。


「そういや、目黒君女に振られたんだってな。」

「ええまあ。」


「いい女か?」

「ええまあ。」


「そのルナちゃんよりもか。

でもなんで振られたんだ。浮気だろ。」

「ち・ちがいますよ。」


「じゃあ何で?」

「ええちょっと・・。」


「色々複雑なんですよ。聞いてあげてください。」

涼がまたしてもわって入ってくる。


「何だお前も知ってるのか?それで今でもまだすきなのか?」

「ええまあ。」


「だったら、なんとしても自分の思いを伝えなきゃ。

やるべきことはやんなくちゃ後悔するぞ。」

「ええまあ。」


「何だかはっきりしねーな。俺がいってやろうか。」

「!」


隆二さんの熱い性格は知っていた。

武闘派で、情に熱い性格。

特に一度仲間と認めた人間にはものすごく熱い男だった。

もしかしたら、涼はこれを狙っていたのか。


「それがちょっと厄介なことになりましてね。」

「何だ。言ってみろよ。女に関しての大先輩が力になるぜ。」

隆二さんは気が大きくなっていた。


「ありがとうございます。でも、ここではちょっと。」

「なんだよ。もったいぶっちゃって。」

「私もききたーい。」

ルナちゃんが乗り出す。


「隆二さん後で、下で。」

涼が隆二さんを制す。


「何だよ。マジモードかよ。しょうがねーな。

青少年は悩みにナイーブだからな。

あっ。おまいら青少年じゃねーか。」



隆二さんは隣の子の指名を入れて話し始めた。

涼も何かライオンの話をしている。

テーブルトーク終わりかよ。


「目黒君て、下の名前何ていうの?」

「優介。」

僕も仕方なくルナちゃんの相手をすることにした。


「へー。優介っぽいね。」

「どんなだよ。」

ルナちゃんは今時のギャル系だ。

金髪は内側に巻かれて、目元のメイクは濃いが、

なかなかの美人で、

人気あるだろうなと思った。


「でも、振られちゃったんでしょ。

おねいさんも相談に乗ってあげようと思ってたのにー。」

「ああ。相談とかどうしようもない。」


「何で?」

「話が厄介すぎる。環境とかそういうの。」

「そうなんだ。そういうのあるよね。」


「あんまりないだろ、そんなの。」

「そんなことないよ。ルナも前の彼氏に住む世界が違うとか言われたし。」


「マジで?」

「うん。私がキャバクラで働くの嫌みたいですごく束縛してきたんだよ。」

「そりゃ嫌だろうな。男としては。」

「それじゃあ、何か仕事紹介してって感じ。ルナ中卒だし、

働くとこあんまないんだよ。ここやる前だって、750円のマルエツだし、

正直暮らしていけないよ。」

「それもそうだな。生きるって大変だもんな。」

「優介は彼女がキャバで働いてたら嫌?」

早速名前かよ。

馴れ馴れしい。

「別に俺は嫌じゃない。」

千恵はキャバクラどころじゃないし。


「そっか。暴走族だもんね。」

「つーか今はもう違うから。」


「仕事は何やってんの?」

「学生。」

「へー。専門?ルナもまだ学生だよ。」

「ほんとに何の?」

「ネイルってわかる?」

「ああ。つめだろ。」

「そう、つめ。」

ルナちゃんは自分のつめを見ながら言った。

「なんか夢があるっていいな。」

「そう?優介は夢ないの?」

「夢?」

「うん。」

「あんまり考えたことないな。」

僕は正直に言った。

「そっか。暴走族だもんね。」

「だから違うっていってんだろ。隆二さんと一緒にすんなって。

第一俺らはバイクパックだし。」

ルナちゃんは結構のりがいい。


「バイクパックって?」

「実は俺もよくしらないんだよね。

走りやじゃん。」

「なんて言うチームだったの?」

「バシリスク」

「どんな意味があるの?」

「実は俺もよく知らないんだよね。

涼がつけたから。」

「涼って、あの人?蒲田君?」

「そうだよ。」

「チーム目蒲線のほうがよかったんじゃないの?」

「何でだよ。」

「もしかして、不動前君とか武蔵小山君とかいたりして。」

「そんな奴いねーよ。

でも奥沢君ってのはいたな。チームにはいなかったけど。」

「あはは。おもしろーい。」

「でも電車の駅名って結構いるのな。」

「うん。あっ。そういえば、私もそうだ。」

「えっ。なんて言うの?」

「あんまりいいたくないなぁ。」

「なんで?ダサいの。ローカル線?

宮原とか行田とか?」

「違うよ。ローカル線ってゆうか高崎線で近いだけジャン。それ。

でもいそうだけど。もっとメジャーだよ。すごく。」

「マジで?なんだろ大宮とか?」

「ブブっー。なんで埼玉ばっかりなの。超メジャーだって。

ヒント山手線。」

「山手線?一応俺もだけど。うーん大崎?品川?」

「いそうだけど違います。目黒からだと反対方向です。」

「ええー。恵比寿?渋谷?」

「ピンポーン。」

「マジで渋谷?ちょーメジャーじゃん。」

「うん。まあね。」

ルナちゃんなんか嬉しそう。

「で。渋谷なんて言うの?」

「理恵。」

「渋谷理恵か。何かかわいいっぽいね。」

「うふふ。そうでしょ。名は体を表すのよ。」

「へー。イメージあるね。体はいってないけど・・。」

「ねえ。優介ケータイ教えてよ。」

「えっ。ああ。うん。いいけど。」

僕はピッチの番号をはしの袋の裏に書いた。

「今思いついたんだけど、山手線の人全部集めてみようかなと思って。」

「なんだ。そのためかよ。」

「うふふ。冗談。冗談。でも品川さんとか大崎さんはいるけど、

新宿とか池袋はいるかな?」

「どうだろ。大塚とか上野はいるな確実に。新橋、田町あたりはいそうだな。」

「いるかもよ池袋太郎とか。」

「あはは。それ玉袋筋太郎だろ。」

どうでもよい名前の話で盛り上がった。

渋谷理恵なかなかやり手かも。


そうこうしてるうちに、黒服はやってきた。

「そろそろいくか。」

隆二さんは腰を上げて、財布を出し、会計を済ませた。


そして下にいくことになった。

毎回そうしているようで、下はこぎれいな居酒屋になっていた。

僕と涼も後に続いて、階段を降りた。



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