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薄暗い部屋

・・・千恵。


カーテンの開いた先は廊下になっている。

簡単に造作された個室がいくつもつながる。

その個室の扉が幾つも見えた。


千恵は何も言わず。

ただ無言で自分の割り当てられた部屋へと僕を案内する。

僕も無言であとに続く。


小さな部屋だった。ベツトとシャワールームのみの三畳ほどの部屋。

薄暗い照明。


部屋に入ってからも、

僕らは、無言だった。


僕と千恵は無言のままベツトに腰掛けていた。

頭の中では、色々な言葉を捜す議論が始まっていたが、

結論はまだでていなかった。


「あっ。・・あん。」


隣の部屋から聞こえるあえぎ声と、

有線放送だろうか、

何故かキャプテン翼のオープニングテーマが響いていた。


千恵は黒いキャミソールに身を包み。

僕の横に腰かけ、ひたすら無言で床の絨毯の網目を数えているようだった。

空気が重い。


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


どの位の時間が経過しただろうか?

ものすごくたったようにも感じられるし、

まだ二・三分しかたっていないようにも感じた。


何故千恵はこのようなところで働いているのだろうか?

大学は?

学校は?

家は?

いつから?

今まで何人ぐらいの客をとったのか?

どういうサービスがあるのか?

何故西川口なのか?

本当に借金があるのか?

いつまでやるつもりなのか?

今日のあがりは何時なのか?

お金はいくらもらえるのか?

ヤクザとはどういう関係なのか?

なんでななちゃんなのか?

いつになったら口を開くのか。


僕のことをどう思っているのか?


僕はもう本当におかしくなりそうだった。


「優介・・・・。あのね。」

突然千恵が話し掛けてきた。


「ああ。・・・」


「私、最悪の女なんだよ。」

千恵はそれだけ言うとまた床に目を伏せてしまった。

部屋は薄暗く、

セミロングのの髪がかかる顔ははっきり見えなかった。



「千恵・・・。」


「よくここがわかったね。」

「・・・・・。」


「西川口とか来た事あるの?」

「ない。」


「まさか優介が来るとは思わなかったよ。」

「・・・・。」


強がっているのか?

横から千恵を見ていると胸が痛く

締め付けられるようだ。

これがいとおしいというのだろうか?


「千恵。お前どうして。」

「・・・・。優介には分かんないよきっと。」


「何が。」

「・・・・・。」


「ああ。俺にはまったくお前が何考えてるかわかんねーよ。」

「・・・・・。」


僕は千恵の左手を引っ張り自分に引き寄せ抱きしめた。

「優介。・・・」


千恵の息が耳にかかる。


二人の鼓動がかさなる。

薄暗い部屋で抱き合う二人。

今まで、何人にもここで抱かれたのか。


その体勢のまま時間は流れた。

何も言わず、心臓で会話する二人。

あえぎ声はおさまり、有線もアユの曲に変わっていたが、

相変わらず部屋は薄暗く、怪しい不陰気を保っていた。


トゥル・トゥルルルルルル・・。

突然壁に備え付けている電話がなった。

二回コールして切れた。


「もう時間・・。」

千恵は僕の体を両手で離した。


「千恵。駅前の焼肉丼の店の前で待ってる。必ず来い。

来るまで待ってるから。」

「・・・・・・。」

千恵は何も言わなかった。


ケチって30分じゃなく60分にしとけばよかった。


「お客様おかえりでーす。」


僕は部屋をでた。

先ほどのマオカラーがニコニコして話す。

「お連れの方は、もうお待ちですよ。」

「・・・・・。」

「いかがでした?サービスは満足いただけましたか?」


僕は無言で店を出て階段で下へおりた。



涼は下で待っていた。

くわえタバコの煙に目をしかめていた。

本当にガラが悪い。


「どうだった?」

涼は僕を見るなり声をかけた。


「千恵だった。」

「・・・!マジかよ。」


「ああ。」

涼はそれ以上聞かなかった。


僕は黙って駅前の立ち食いの前に歩を進めた。

今は千恵が来てくれることを信じて。







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