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マスター

 

 僕と涼の二台は、環七から川越街道、新大宮バイパスへと爆走していた。

荒川を越え埼玉に入る頃にはさすがに、寒さが限界に達し、

小休止だ。


R17 国道17号も他県の人間にはややこしい。

17号バイパス。

旧中山道

国道十七号(中山道)

と3本ある。

電話で17号とか伝えられると、注意が必要だ。

道路標識だけだと、解らない。


僕と涼はファミレスで熱いコーヒーを飲みながら、

今後の動きについて相談していた。


勢いで埼玉に来たはいいが、

千恵を探す手がかりは何もない。

それどころか千恵が本当に埼玉にいるのかすら怪しい。

今のところ、あるのは3日前の涼の目撃情報だけだ。

あたりはもう暗くなっている。


「とりあえず、俺のうちで作戦を考えるべ。」

震えながら、コーヒーを口元に運び言った。

「それしかねーな。」

今のところ本当にそれしかないのだ。

僕は少し後悔していた。


「荒木組の線からあたるしかないな。」

「でも、大丈夫なのか?俺は普通の高校生だぜ。」

「俺と一緒にチームやってたくせに、その時点で普通じゃねーよ。」


「そうかな? でもなんか考えがあんのか?」


「わかんねけど、知り合いのママさんがやってるスナックのマスター。

つまりだんなが確か荒木組だったと思ったんだけど、、。」

「じゃあそこにいって聞くしかないな。で、何処にあるんだそれ。」

「大宮。」

「大宮か。」

「さみーな。」




ナイトラウンジ「毒女」


そのスナックは繁華街から少し離れた、小道にあった。

南銀通りをまっすぐ新都心方面へ歩くこと10分。

ようやく目的の場所についた。


僕は制服のままだったので、それではまずいということで、

一度涼のアパートにより服を借り、着替えてから電車でやってきたのだ。

涼のアパートは外見はボロだが、中はユニットバスも付いていて、思ったより

生活しやすそうだった。

あの部屋で、涼が一人で生活をしているのを考えると、

なんだか自分ひとりが置いていかれた気がした。

僕自身も早く一人で独立したいと思った。


慣れた手つきで涼が思い扉を押し開けた。

カランカラン

「いらっしゃ。あら涼ちゃん。」


店内は薄暗く10坪程か。

入り口から向かいがカウンターで、手前にボックスが4卓程の

こじんまりとしたお店だ。

内装は黒を基調としていたが、

置物の一つ一つが中世ヨーロッパを思わせた。

華やかではないが、落ち着けそうだ。


「涼ちゃん久しぶりじゃないの。こちらにどうぞ。」

僕たちは手前のボックスに座らされた。


案内してくれたのがママだろうか。

30台半ばに見える。

黒のドレスはボデーラインを強調しスレンダーな

なかなかの美人だ。


すぐにボトルとアイスが用意される。

「ママ。今日はマスターは?」


「解らないわ。もうすぐ来ると思うけど・・。

マスターに何か用事?」


「いや。たいしたことじゃないんだが、それじゃあ来るまで待たせてもらうよ。」

「そう。」



店内には僕たちの他に一人の男性客がいるだけだった。

奥のボックスで20代の若いホステスと談笑している。

様子から見ると、どうやら常連のようだ。


基本的にスナックやパブは対面接待だ。

横に座るキャバクラとは違い、客の正面の丸椅子でホステスは相手をする。


「涼ちゃん久しぶりじゃない。どうなの調子は?」

僕らの正面に座った女は馴れ馴れしく涼に話し掛ける。

「ああ最近忙しくてな。」


「そちらの方は?」

「あっ。こいつ俺の地元の友達。」


「どうも初めましてカオリです。」

女はそういってグラスを出した。

「ああ。どうも」

僕は緊張からかまごついてグラスを出す。

非常にみっともない。


「今日はどうしてまたお友達と。?」

「ん。久しぶりに会ったからな。」


「えーどれくらいなの。」

「一年ぶりくらいかな。」

「な。」


「ふーん。でも二人とも若そうだよね。涼ちゃん何歳なんだっけ?」

僕はドキッとした。

いくら涼の服を借りてきたといっても、

ぼくはまだ高校生だ。

「21だよ。」

涼は普通に答えた。

「えー。じゃあそっちのお兄さんも。」


「そうだよ。」


「まじで、じゃあカオリと同じ年ジャン。」

「!」


確かにこの女カオリは店では一番若いようだ。

見た目は水商売っぽくなく髪も黒髪で、

きれいというよりどこかかわいい感じのする、

何処にでもいそうな女の子だった。


「涼チンはもっと年上かと思ってたよ。でも友達は

やっぱり若いね。」

「う・・うるせー。男は多少ふけてたほうがいいんだよ。」


カランカラン。

店の扉が開く。

両手にビニール袋を下げたいかつい男が入ってくる。


「あっ。いらっしゃい。」

男は涼に気づき軽く挨拶をする。

「どうも。」

僕も釣られて頭を軽く下げた。


「あら。涼ちゃんなにかあなたに用があるみたいなのよ。

さっきから待ってるの?」

ママが奥から声を出す。


「俺に?一体なんだ?」

マスターは店の置くにあるカウンターの裏に荷物を置いてから出てきた。


「いや、たいした用事じゃないんですがね。」

「何だ。金なら困ってないよ。」


マスターはそういいながら、カオリの横に座る。

この男が本当にやくざなのか?

身長はないが厚い胸板をしている。

腕っ節はつよそうだ。

カオリは気を利かせたのか席を立った。


「いや実は人を探してるんです。」

「何だ。人探しなら、あんたの商売じゃないか。」


「違うんです。仕事とはちょっと別で。」

「何?」


マスターは膝に肘を突くような格好で少し前のめりになった。

話を聞いてくれる体制だ。


「実は、この前南浦和の駅前で、荒木組のセンチュリーとベンツを見かけましてね。・・」

話の途中でマスターはちらりと他の客に目をやった。

客はさっきと同じく一人だけ。

楽しく飲んでいるようだ。


「ヤバイ話か?」

マスターの眼は真剣になった。

やはり本物のヤクザがこの表情をすると凄味がある。


「いえ。そんなには。多分。」

涼も少しビビッたようだ。


「センチュリーって言えば斎藤か、内海だな、それで?」


「男同士なにこそこそやってんだよ。ウチは飲み屋だよ。

酒のみな。」

カウンターの奥からママの声が飛ぶ。


「すみません。すぐ終わりますから。」

涼は顔をあげてさわやかに答えた。

ママはよからぬことを考えて不機嫌になったのだろう。

しかし、僕たちはただ千恵を探しているだけなのだ。


「斎藤がどうしたんだ。」

マスターは勝手に決め付けて先を急いだ。

「いや。そのとき車に女を乗せるところだったんですよ。

僕たちが探しているのはその女なんです。」


「若い女か。」

「はい。」


マスター黒目だけを動かして僕の方を見た。

「マスター何か知りませんかね?」


「この彼も伊澤んとこの者か?」

「いや、彼は違います。」


「その女は何だ?何をやった?」

「いえ、別に。彼の女なんです。」

 

「・・・・。そうか。」

マスターは何か考えるような仕草をしていた。


「手がりがそれしかないんです。何かわかることがあれば、

何でもかまわないんで教えて下さい。」

僕はマスターに頭を下げた。


「まあ。斎藤の所だったらまず間違いなく風俗だな。」

「風俗。!」


「ああ。おそらく借金のかただろう。

最近の子はホストで金使い粗いから、よくあるんだ。

奴はホストと連携して、良いシノギ持ってるから。」

「そんなんじゃないと思うんすけど。」

僕が口を挟むと涼が横からわって入り、

僕に何か眼で合図を送ったように感じた。


「その斎藤さんって人の店は何処にあるんすか。?」

「えっ。俺も詳しくは知らないが、西川口にあるらしい。」


「店の名前とかわからないっすか?」

「なんか何とかガールっていったと思う。」


「ありがとうございます。」

涼は丁寧にお礼を言った。

こいつも大人になったもんだ。


「ちょっといいかげんにしてくれないかね。」

再びママが奥から言う。

「もう終わったよ。」

マスターはごゆっくりとだけ言い残し、カウンターの奥に引っ込んでいった。

その後姿はひょうきんなおじさんに見えた。


「おい風俗って違うんじゃねーか?」

僕は涼に食いつく。

「まあ、待てよ。今はそれしか手がかりがねーんだ。

一つずつつぶしていくしかないだろ。

俺もそんなこと考えたくねーよ。」














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