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三ヶ月

第三部 三ヶ月


涼と会ってから三ヶ月がたったが、涼からの連絡はなかった。

この三ヶ月でクリスマスも年越しもあったが、

特に僕の生活に変化はなかった。

普通の高校生がそうするようにそうして過ごした。

一度だけ僕から涼の携帯にかけた事があったが、電波が入ってなかった。

それ以来タイミングを逃した感じがして、かけていない。


もう春が近づき、僕の高校生活も終わりに近づいていた。


教室の空気はどこか希望に満ちて浮き足立っていた。

そんな空気はきらいじゃなかった。


「優介は卒業したらどうすんだ?」

教室の机に頬杖をついていた僕に友人のテラが話し掛けてきた。

クラスであまり話さない僕の数少ない友人一人だ。

「とりあえず、知り合いのスタジオで働こうと思っているよ。」

テラは受験組だが10校位底辺の大学を受けたらしいが、

全てダメだったので、浪人が決定していた。

「そうか。給料はいいのか?」

「18万だ。」

「まあ自分の好きな音楽に携わる仕事だからいいんじゃね。

ウチは親が大学行けってうるさくてさ。また一年勉強だよ。」


「予備校行くんだろ。大変だな。」

「いったってモトがモトだからな。どこまで価値があるか・・・。」

「それもそうだな。」

「自分で言うのも変だけど、金が勿体ねーな。その金別のところに使ってく

れないかな。」

考えが甘い奴だ。

「このクラスでちゃんと進路決まってんの半分もいないだろ。」

「そうみたいだな。」


僕はこの底辺の学校でも成績が悪く、

(遅刻欠席も多いためもあるが)二学期から進学はあきらめていた。

最後まで卒業が危うかったので、冬休みも補習だった。

勉強に興味が持てないのだ。


正直高校を卒業して不安がないわけではなかったが、

今はとにかく4月から学校に行かなくていいということがうれしかった。

高校は何とか卒業だけはしたかったし、親とも約束したことだった。

なんとか約束は守れそうだ。


「千恵ちゃんは静岡行くって本当か?」

「そうみたいだな。」


「そうみたいだなって、お前。別れたのかよ。」

「さぁな。」


僕はもうどうでもよくなっていた。

二学期になってから千恵は予備校や勉強で、

僕はバイトと補習であまり会わなくなっていた。


僕も千恵の受験の邪魔をしては悪いと思いあまりかかわらないよう

にしていたのかもしれない。

千恵にも受験組同士で新しい友人もできたようだし、

なんかその楽しそうな和に入っていけなかったので、

次第に遠ざかっていった。

自然消滅なら明らかに僕の方に原因がある。

くだらない男のジェラシーだ。

僕にはそういううじうじした部分がある。

そういう部分は自分でも嫌いだ。負け犬根性と言うか。

ひねくれものというか・・。

人はそんなに気にしていないことでも、

変にこだわる。


「お前静岡行く前に、はっきりしといた方がいいんじゃね。」

「そうだな・・。」

どうでもよくなっていたが、

はっきりさせたい気持ちもあった。

テラに言われてその気持ちが強くなったようだ。



げた箱からテラと歩いていると、校門の前に人だかりができていた。

中心には、見覚えのある日章カラー。


「よぉ。テラ久しぶりジャン。」

「涼か?ひさしぶり。おめーこんなとこで何してんだよ。

なんだその単車。」


涼がいた。


「よお。」

「ああ。」


涼は静かに僕に挨拶した。

その目は冷たく刺すような視線をつきつけた。

今日は白熊を着ていなかった。

襟にフェイクファーの付いたコート。

コート合間に黄色いネクタイが見える。

コートの下はスーツだ。

三ヶ月前の空気とは明らかに別だった。


「悪かったななかなか連絡できなくて。忙しくてな。」

「別に・・。俺のほうも。」


周りの奴らもその重い空気を察したのか、

軽く挨拶して徐々に散っていった。


「お前このBXもったいねー。」

ただこの男テラだけは別だ。

「いいだろなかなか。・・お前学校全部落ちたんだってな。」

「何でしってんの?」

「さっき聞いたよ。」

「黒澤か?あいつ余計なことばっかりいいやがって。」

「まあいいじゃねーか。」


「それよりお前なんでこんなとこいんだ?」

「ちっと優介に話があってな。」

「・・・そっか。」

テラもようやくただならぬ空気を察知したようだ。

テラは僕と涼のいきさつを全て知っている。


「そんなら邪魔者は消えるわ。優介先帰るぞ。」

「ああ。ワリぃな。」


「・・・お前等喧嘩すんなよ。」

テラは帰り際涼を足元からなめるように見てから、

注意するように言った。


「大丈夫だ。別にそういうのじゃねー。」

涼は静かに自分に言い聞かせるように言った。

涼の瞳はまだ僕を見たままだった。


「話って・・・」

「ガッコの前じゃなんだ、優介ケツ乗れよ。」

涼は僕の言葉を遮るようにいい、顎でタンデムシートを促した。


「いや。じゃあ、今単車持ってくるから待っててくれ。」

「わかった。」


僕はバイクの止めてある図書館前まで歩きながら、

何の話か考えていた。

涼のただならぬ不陰気から、仕事で何かトラぶったのかと

見当をつけていた。

僕に何か力になれることなのか?

この三ヶ月奴に一体何があったのか?

いずれにしても良くないことだろう。





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