帰結
僕が目を覚ますとそこは病院のベットの上。
白いカーテンと天井に囲まれた小さな空間に横たわっていた。
夜なのか酷く薄暗い。
僕はどうしたのだろうか?
何が起こったのだろうか?
僕の頭は混乱していた。
左腕には点滴がしてある。僕は自由の利く右手で体を起こした。
(痛いっ。)
全身が筋肉痛、打ち身のように痛かった。
足にも包帯が巻かれ、あちこちに青あざがあった。
ここは現実の世界。
僕はようやく置かれている状況を理解した。
そう。
僕は事故にあったのだ。
死神の部屋から出て、町を朦朧としながら歩いていると車に引かれたのだ。
何故?
何故、死ねなかったのか?
死神にあっていながら。
僕はまだ生きている。
僕は重く不自由な体を動かして、横の引きだしの上においてあった鏡を取って見た。
酷い顔だ。
頭には包帯が巻かれ、頬はこけ土気色の気持ちの悪い顔色をしていた。
「気がついたようね。」
僕ははっとして窓際を見た。
気がつかなかったが、そこにはあの女がいた。
黒ずくめのロングのツーピース。
黒いつばの深い帽子。
死神だ。
僕はあわてて思わず、ひゃぁと情けない声を出してしまった。
死神は窓の外の薄明かりに照らされながら、窓枠に腰掛けていた。
迎えにきたんだ。
やはり僕は死ぬのだ。
僕はそう思った。
そう思うと、だいぶ楽になったのか少し落ち着いた。
「……迎えに来たのですね。」
僕は思い切って、声をかけた。
「……ええ。あなたがそれを望むなら。」
死神は小さく言った。
その言い方に少し違和感を感じたが、僕はもうこの世界に未練はなかった。
心も落ち着いていたし、死を受け入れる準備はできていた。
「望みます。」
僕ははっきりとした口調で言った。
死神は僕の声に反応せずただ黙って、窓の外を見ていた。
何か考え込んでいるようにも見えた。
「……。」
「……。」
ゆっくりと時間が流れる。
死神は静かに立ち上がり。横になっている僕のベットに近づいてきた。
僕のベットの腰のあたりに腰掛けると、そっと細い手を僕の顔に伸ばした。
その手を僕の頬につけると、下を向きながら小さく震えていた。
死神がこんなに近づいたのは初めてだった。
死神は下を向いて小さく震えながら、嗚咽を漏らしていた。
どうやら泣いているようだった。
僕はどうしたら良いのか分からずに頬に触っている手を両手でつかんだ。
その手には暖かさがあった。
人間の暖かさ。
懐かしいような、やさしいぬくもり。
僕は思わず目を閉じた。
「…っすけ。……。」
「?」
「ゆう……。」
「?」
「……ゆうすけ…。」
目を開けると、そこには女の顔があった。
月明かりに照らされたその女の泣き顔には、確かに見覚えがあった。
千恵。




