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涼の死について

「どういうことだよ?」

僕は千恵が本当に涼を殺したとは思っていない。

その言葉の意味する、ことを聞いているのだ。

つまり、あの晩何があったのか。


「あの夜、どうしたんだ? 詳しく話してくれないか。」

「私が殺したようなものだよ。」

千恵はまだ遠くを見ている。


「俺が寝た後、涼は起きていたんだな。」

「うん。」


「朝起きたら涼はいなかったよな、何処に行ったんだ?」

「分からない。」


そういいながら、千恵は首を振った。


「俺が寝た後、涼と話したのか?」

「うん。少し。」


「何を話した?」

「・・・・・・・・・。」


「言えないのか?」

「・・・・・。」


「まずいことなのか?」


「・・・・お金・・・。」

「えっ?」


「お金を用意するって・・・・・。」

「涼がそういったのか?」

千恵は小さく頷いた。


「そして、一緒に暮らそうって。」

「何だって?本当に涼がそういったのか?」


「うん。」

「それで、お前は何て・・・・。」


「私には優介がいるからって・・・・・。

大学も諦めるしって断ったの。」

「それで・・・・・。」


「そしたら、変なこと言ってごめんって、気にしないでって言って・・

後ろ向きになって寝ちゃったみたいだったけど・・・・。」

「・・・・。涼はどこかに出て行かなかったのか?」


「うん。そのときは・・・。私も暫くして寝ちゃったから。」


そんなことがあったのか・・・。

確かにお母さんが言ったとおり、一人で精一杯生きて、淋しかったんだろうな。


「何で、そんな大事なこと黙っていたんだよ。」

「だって、言えなくて・・・・・。」

千恵の目には涙が浮んでいた。


「いえるわけないでしょ。

私もあの朝いなくなっていたから・・・。

ずっと気になっていたんだよ。」


かっこつけの涼のことだ、

そこまで決意して、告白したのに断られたら。

もしかして自分で死を選ぶこともありえるかもしれないと

少し頭をよぎった。

涼にとっては、本当に命をかけたような、一世一代の言葉だったに違いない。


「まさか、死ぬなんて。」

千恵は泣きながらつぶやいた。


「・・・・・・・・・・・・。」


びっくりした。

涼がそんなこと言うなんて。

僕は涼のことがわからなくなった。

僕に対してのバツが悪かった部分の方が大きいだろう。

以前もそのことで姿を消していたし。

思い返せば、

あの晩、涼は僕にこっちでいっしょに働こうと言った。

どういう思いで、言ったのかもう少し考えるべきだった。

涼の置かれている状況をもう少し、興味を持って理解してやるべきだった。

西川口の喫茶店でも、涼はやりたくて取り立てをやっているわけではないと

言っていた。


僕には未来があった。

涼は一人で悩んでいただろう。

しかも、その友人が、好きな女の男なのだ。

僕には逆の立場は想像できない。


もしかして、本当に斎藤は関係ないのだろうか?

いや待てよ。

千恵の言ったお金を用意するって・・・。

涼は何処からそのお金を用意するつもりだったのだろうか?

もしかして、黒い金か?

考えすぎか?

とにかく涼は自分の意思で、あの部屋を朝方に出たのは間違いなさそうだ。


「優介・・・・。私・・・・。」

「千恵は悪くないよ。

仕方がないことだったんだ。

・・・・・仕方がない。」


僕は千恵を見下ろしながら繰り返し言った。

その言葉は自分に言い聞かせているようでもあったが、

何の意味も持たなかった。


涼は淋しかったのだ。


涼という人間を考えると、僕は怖くなった。

つい、一年前まで、僕等と同じに過ごしてきた奴が、

ほんの些細なきっかけで、いなくなってしまう。

千恵も、僕も今ここにいるのに。

涼はいない。


・・・・・・。

千恵は少し落ち着いたようだ。

「涼は横浜で、見つかったんだ。

俺横浜に行ってみようと思うんだけど・・・・。」

「横浜?・・・・。優介、もう辞めて。」


「どうした?」

「これ以上危ないことに、関わらないで。

・・・・せっかく。これから。・・・」

千恵は僕の手をとり話した。


「でも、俺涼が自殺なんて、信じられないんだ。」

「私のせいだよ。蒲田君を深く傷つけた。」


「千恵のせいじゃないよ。それに涼は殺されたと思う。」


「誰に?でも、外傷もなかったんでしょ。それにもしヤクザの人たちに拉致されたとしても、

何故彼を殺す必要があるの?お金にならないことはしないと思うけど。・・」


「・・・・・・・・。」

言われてみて、冷静に考えればヤクザが喧嘩のことで、人を殺すだろうか?

涼は鉄柱に頭をぶつけられて、気絶したわけだし。

恨みがあるとすれば、むしろ僕と隆二さんだ。

いかに常軌を逸したとしても、喧嘩の時に一緒にいたからと言って、

涼を横浜に捨てる程、ヤクザもバカではないだろう。

涼を殺しても彼等には、何のメリットもないのだから。

むしろ警察につかまるリスクを負うだけになる。

特に斎藤は一見してインテリヤクザだそんな一時的な感情で、人を殺すとは思えない。

やはり自殺か。


「優介。お願いだから、もうヤクザと関わらないで。」

「・・・。でも。」


「もとはといえば、私のせいだけど、優介には普通に生きてもらいたいの。

折角勉強もやる気になってたんだし・・。」

「千恵・・・・・。」


「蒲田君のことは・・・。本当に・・・。」

千恵は自分を責めているように見えた。


僕はもうその話題に触れるのを辞めることにした。

僕は千恵のことが心配だったが、

千恵は大丈夫と言って帰っていった。

いつのまにか、薄暗くなり、少し雨が降っていた。


千恵にあげるはずのSRのタンクは中途半端な塗装のまま、

雨にぬれていた。




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