秘密主義
僕は勉強する気になれなかった。
いつも家でCBXをいじっていた。
かっこよく自分仕様にすることに夢中だった。
もちろんカウル系は全部はずした。
僕のセンスではない。
昨日は名義変更を済ませてきた。
ハンドルはなかったのでアップのままだが、カウルをはずすだけでだいぶ様になった。
オイルを交換しようにも、ねじ山が崩れていて、一苦労だ。
ほとんどオーバーホールに近い形で、綺麗にした。
変わった点は油圧計をつけたくらい。
エンジンの調子もセル一発で好調だった。
「どうしたの?そのバイク。」
顔をあげると千恵が立っていた。
「うん?」
「それ、蒲田君のじゃないの?」
「ああ。貰った。」
「うそ。あんなに大事そうにしていたのに?」
「うん。」
僕は作業を終えて、かたし始めた。
「2台になっちゃったね。」
千恵は僕に気を使ってるのか、明るく笑顔で話し掛けてくる。
僕は千恵の顔をまともに見れないでいた。
「ああ、そうだな。千恵。お前俺のSR乗らない?」
「えっ。」
「二台もいらないからさ、お前免許取ってさ。」
「でも・・・・・・。」
「大丈夫だよ。足があった方が便利だろ。」
「それはそうだけど、いいの?」
「ああ、あげるよ。」
「うれしい。」
千恵は満面の笑顔を見せた。
「えへへ。実は私中免持ってるんだ。」
「嘘だろ?」
聞いたことがなかった。
「ホント。」
「いつ取ったの?」
「去年の夏。合宿でね。」
「えっ。車の免許じゃなかったの?」
「車と一緒にとっちゃった。」
「マジで?何で黙ってたの?」
「バイクはあんまり乗るつもりなかったし、
優介を驚かせたかったから。驚いた?」
「ああ。」
本当に千恵の秘密主義には驚かされる。
「それより具合悪いんじゃなかったの?」
「ああ、もうよくなったみたい。」
千恵には一週間休むといってあった。
「じゃあ、来週からまた図書館行けるね。バイクで。」
「ああ。」
僕はあんまり乗り気じゃなかったけど、仕方なく返事した。
一時間くらい僕の部屋で話して、
その後少し一緒に勉強した。
千恵は6時ごろ帰った。
千恵が帰ったあと、僕はまた涼のことについて考えていた。
少し冷静になって、今まであったことを整理して考えてみた。
涼は殺された。
警察発表では、外傷はなく海に入ったとのことだったが、
外傷がないはずはない、何しろ僕と一緒に喧嘩していたのだから。
少なくとも、殴られた後や、おでこの傷はあって当然だ。
でもなんで横浜なんだろう?
涼が一人で横浜に電車に乗って行ったのだろうか?
ありえない。
あの晩斎藤たち(手下)は僕達を探していた。
それは、渋谷理恵の証言で間違いない。
しかし、涼は僕達と一緒に涼のアパートで寝ていたはず。
もし、斎藤の手下が涼のアパートを探し出したとしても、涼だけ連れ去るのは
不自然。それに人の出入りがあれば、いくら疲れて深く寝ていたとしても、
僕もきづくはず。その気配はなかった。
としたら、涼は自らの意思で、外に出かけたってことか?
あの時間に?
何の為に?
僕が最後に時計を見たのが、午前三時。
目がさめたのが、十時二十分。
午前三時の段階で、千恵はまだ起きていたから、
一時間は起きていたとして、(これは千恵に確認してみないと分からない)
約六時間の間に涼は出かけた。
こう考えるのが普通だろう。
そして、拉致られた。
横浜に車で運ばれ海に捨てられた。
隆二さんはこのまま何もしないつもりなんだろうか?
斎藤がかかわっていることは間違いないのだが、
その糸口がない。
荒木組の事務所では、斎藤は縁を切られて行方がわからないとのことだった。
毒女のマスターも分からないらしい。