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母親

 涼の葬式はひっそりと行われた。

警察の見解では自殺だった。

涼の普段の生活状況と他に目立った外傷がないことが理由とされたが、

僕と隆二さんははなからそんなことは信じていなかった。

まるでこれ以上チンピラの死には税金をかけられないと言っている様だった。


僕はまだ夢でも見ているかのように、葬儀会場にいた。

参列者は極近い親族と、僕と隆二さんだけだ。

人数が少ないので焼香もすぐ終わってしまい、出棺の時間だ。

涼の母親は、静かに僕に挨拶した。

不思議と取り乱している様子はない。

お母さんは自殺を信じているのだろうか。


火葬場は会場のすぐ横にあった。

短い距離の移動でも、バスに乗った。

狭いマイクロバスでも十分乗り切れるほどの人数。

およそ6人程。

棺おけが運ばれ、窯の前でもう一度、焼香。



「最後のお別れとなります。」

係員が慣れた口調で、機械的に言う。


チン。

とエレベータのような音と共に、窯の蓋は開かれた。

すぐ横でも別の死体が焼かれている。


僕は涼の顔をみれなかった。


棺おけが入れられ、鉄の扉は閉められた。

係員は二二階で待つように誘導したが、

僕と隆二さんは遠慮して、ここで帰ることにした。


「今日はありがとうございました。」

涼の母親は、僕達に深々と頭を下げて言った。

口元にはハンカチを押し当てながら。


僕達は静かに礼をして火葬場を後にした。

何故か、隆二さんも僕も淡々としていた。

深い悲しみはあるが、泣き崩れたりはしなかった。

そもそもまだ、涼の死を実感できていないのかもしれない。

また、かっこつけて、すぐ僕の目の前に現れるような、気がしていた。


結局あの僕を悩ませた、電話番号は、涼のお母さんからで、

葬儀の日程を知らせるものだった。

電話では涼のお母さんは、死因については何も言わなかった。

僕も短く分かりましたと答えただけだった。


葬儀の翌日、再び涼のお母さんから電話があった。

涼の遺品を分けてもらうため、僕は涼の実家を訪れた。

僕は涼の着ていた白熊のスカジャンを分けてもらうことにした。

家は散らかっていた。

狭い6畳の奥の部屋には布に包まれた、四角い箱が置いてあるだけだった。

まだ、線香もあげられない。

僕は手を合わせて、決まりきった挨拶をして、帰ろうとすると

お母さんが、僕に話し掛けてきた。


「目黒君・・・・。」

「えっ。あ、はい。」


「実はまだ埼玉に涼のバイクが置いてあるんですけど、」

「えっ。はい。」


「あのバイクあなた貰ってくれないかしら。」

「えっ。」


「あの子、バイクが大好きだったでしょ。

あなたに乗ってもらえれば、あの子も喜ぶと思うのよ。」

「・・・・・・・。」


「あの子友達も少なかったから、あなたぐらいしか、頼める人がいなくて。」

「はぁ。」


「私ももう少しあの子の生活を気にしてやるべきだった。

あなたの名前ぐらいしかあの子の口から聞いたことないもの。」

「・・・・・・・・・。」

毅然としていた、涼のお母さんの様子が変わってくる。


「何で、自殺なんか・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

お母さんは涙を浮かべていた。

まるで自分を責めるかのように。

悔し涙に見えた。

子をなくした、母親の気持ちは僕の理解できるものではないだろう。


「私も恥ずかしながら、自分が生活するのが精一杯で、

正直あの子が一人で暮らすようになってからは、そこまで気が回らなかったの。

軽蔑するでしょ。親として・・・・・。」

「いえ・・。そんなことは。」


僕は女親と息子の微妙な親子関係を見た気がした。

お互いに弱音は見せないのだ。


「心配していなかったわけじゃないけど・・・・。」

「・・・涼は立派に暮らしていましたよ。」


「そういってもらえると・・・。

でも、きっと一人で苦しんだんでしょうね・・・。」

「・・・・・。」

きっとそうだろう。

学校を辞めて一人でがんばったのだろう。


僕はその言葉に胸が熱くなった。

僕がのうのうと暮らしている間に、涼はがんばっていたに違いない。

考えてみれば僕にも弱音を吐いたことはなかった。

いつだってかっこつけて、

奴は親友と言ってくれたが、僕に苦しみを伝えてくれも良かったのに。


僕は涙が出てきた。



僕はCBXの鍵を受け取ると、その足で上尾に向かった。


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