話したくない
実際人の死とはあっけないものなのかもしれない。
僕はまだ涼が本当に死んだとは思っていないし、理解できない。
ただ、現実に警察の人は死んだという。
隆二さんも。
涼が居なくなって、約3週間。
その間も僕は涼を探そうとすれば良かった。
隆二さんに任せるのではなく、自分の足で。
もっと考えるべきだった。
自分のことに必死になりすぎた。
隆二さんはこれからどうするのだろう?
暫く悲しみにくれて、また普段の生活に戻るだろうか。
人はきっと幾つもの死を時間で解決してしまうのだろう。
3週間前、確かに涼と一緒に笑った。
涼の家にいた。
涼と一緒にヤクザと喧嘩した。
しかし、僕は予備校に行って、
涼は殺された。
何だろう?
僕は考えるのをよそうとすればするほど、
涼のことを考えてしまう。
涼のお袋さんは?
千恵は?
俺は?
もう分けが分からなくなっていた。
家に着いても、
僕は呆然と自分の部屋でベットに横になっていた。
もう何も考えられない。
考えたくないというのが本心かもしれない。
「優介電話。」
母親が僕を呼ぶ。
何してるんだ僕はこんなところで?
「ゆうすけー。」
また呼ぶ。
返事をする気にもなれない。
今は誰とも話したくない。
話せない。
「優介。さっきから呼んでるでしょ。」
母親が入ってくる。
手には受話器。
「ああ、分かってるよ。」
「分かってるなら早く出なさいよね。」
受話器を耳にあてる。
「優介?」
「ああ。」
「どうしたの電話かかってこないし、ピッチも何回呼んでも出ないし。」
「う、うん。ああ。」
「心配したんだよ。突然行っちゃうから。
何があったの?」
「・・・。別に。」
僕は千恵に動揺を隠そうとした。
上着のポケットからピッチを出す。
不在着信7件。
「別にってことないでしょ。蒲田君がどうしたのの?」
4件は千恵から。
1件はテラ。
もう一件はおそらく渋谷理恵。
後の1つは、どこかの会社か自宅の固定電話からだった。
「優介聞いてるの?何があったの。」
「えっ。ああ別に。」
「蒲田君に何かあったのね。」
千恵は確信めいて言った。
涼の死は絶対に千恵に知られてはならない。
きっと責任を感じるだろう。
「何もないよ。」
僕は強い口調で言った。
「本当に?」
「ああ、ちょっと仕事の相談だよ。」
「そう、なら良いけど・・・。」
「・・・・・。」
信じてもらえたのだろうか?
「明日はどうするの?」
「・・・・。何かさっきから、だるくて風邪引いたみたいだから、
明日は俺家で休むよ。悪いけど、一人で行ってくれない。」
「そう、もしかしてもう勉強が嫌になっちゃった?」
「バカ。そんなんじゃねーよ。」
語気が強まる。
「ごめん。本当に風邪引いたなら仕方ないわね。
あったかくして寝た方がいいよ。まだ寒いし。」
「ああ。もう切るぞ。」
「そんなに怒らなくても良いじゃない。ちょっと待ってよ。」
「うるせーな。こっちは具合悪いって言ってんだろ。切るからな。」
「ちょっと、優介・・。」
僕は電話の終了ボタンを押した。
気分が悪かった。
ベットに仰向けになり、見慣れた天井を見つめる。
何も考えたくない。
誰とも話したくない。
このまま暫く時間が過ぎてくれればいいのに。
早く。
僕はさっきの不在着信に残ったナンバーが気になって仕方なかった。
もしかしたら涼の死に関係のあることかも?
寝付けない夜は長かった。