大宮西警察
赤羽駅西口を出ると、すぐに隆二さんのY32が目に付いた。
フルスモークの大宮ナンバー。
この時間では、まだ目立つ。
「早かったな。」
僕が助手席のドアを開けると隆二さんは言った。
「何があったんですか?涼は?」
「ああこれから向かうところだ・・。」
車は本蓮沼方面へ向かい、小豆沢交差点を右に曲がった。
戸田橋を渡り、競艇場方面の川沿いを通り、
17号バイパスに出た。
その間、車内は重苦しい空気に包まれ、
僕も隆二さんも一言も喋らなかった。
隆二さんの無言の横顔が、ただ事ではないことを語っていた。
「大宮に向かうんですか?」
僕は意を決して、隆二さんに聞いてみた。
「ああ。」
隆二さんは返事だけして、それ以上は何も言わない。
十七号バイパスを100キロ近くで隆二さんの車は走った。
着いたところは、大宮西警察だった。
「隆二さん。」
「ああ。ここの警察から連絡があった。」
警察署の階段を上り、窓口で隆二さんは手続きを済ますと、
何やら奥に入って行った。
僕はその光景を見ているだけで、隆二さんの戻りをロビーで
待つしかなかった。
警察署のロビーでは、NHKのニュースをやっていた。
30分ご隆二さんは戻ってきた。
「隆二さん。」
「・・・・。」
顔色が悪い。
「涼が死んだ。」
「えっ?」
「涼の死体が横浜であがった。」
僕はすぐには理解できないでいた。
「今、死体の遺留品を確認してきた。
間違いなく涼の者だった。」
言葉がなかった。
突然の涼の死。
頭の中が真っ白になるということはこういうことだろうか?
「し、死体は?」
「横浜の警察病院で司法解剖されているらしい。」
「うそ?」
「・・・・・・・・。」
「何で?犯人は? 」
「まだ、何も。・・・・。」
明らかに斎藤の顔が僕の頭の中に浮んだ。
はっきりと。
「多分、プロの犯行だろう。」
隆二さんの表情は表現の仕様がなかった。
諦めの中に、怒りをかみ殺したような顔だ。
僕はまだ本当に涼が死んだとは思えなかった。
信じられないし、
全然実感がない。
「横浜行きますか?」
「・・・・・・。
今行ってもしょうがない。検死が終われば、帰ってくる。」
まるで、自分の無力感を悟ったような落ち着いた物言いだった。
帰りの車。
無言の車内で、僕を駅まで送る。
僕はこのまま帰りたくなかった。
帰っても仕方がない。
一人で帰るということは、どういうわけかかなり僕に恐怖心を与えた。
助手席で膝の振るえが止まらなかった。
明かりのつきはじめた、看板を背に、隆二さんはポツリと搾り出すように言った。
「俺のせいだ。」
「・・・・・。」
「俺が奴らを甘く見すぎた。」
「そんな。・・。」
僕は何も言えなかった。
実際、もともとは僕と千恵のことがきっかけで、
涼はいわば協力者だ。
隆二さんも。
何故、こんなことになってしまったのだろうか?
考えると、頭がおかしくなりそうだった。
責任の所在は何処にもない。
あるとしたらむしろ僕だった。