電話
結局涼の行方はわからずじまいだった。
隆二さんは毒女のマスターのところへも行ったが、
斎藤の行方も掴めなかったようだ。
マスターが言うには、組織の御法度に触れたとかで、
太田組から縁を切られたとのことだった。
僕は仕方なく、涼の捜索は隆二さんに任せることにして
家に帰ってきた。
涼のことは気がかりだったし、いつも頭から離れなかったが、
人間慣れとは怖いもので、気がつけば
一週間経ち、いつもの生活に戻っていた。
僕は涼のことは千恵には黙っていた。
家では家族会議が行われ、僕は予備校に行くことになった。
テラと同じ西荻の予備校だ。
偏差値が低くても大学に行けることを売りにしたような予備校。
僕は本当に中学生の勉強からやり直しさせられることになり、
中学生の問題集やワークを買わされた。
予備校が始まるまで、春休みの内に全て終わらしておくようにとの
ことだった。
僕は千恵と一緒に図書館でワークをやることに専念する。
僕は勉強が嫌いだ。
中学生のワークといえども、こなすのは結構つらい。
多分一人ではサボってしまうだろう。
そうこうしているうちに春休みは過ぎた。
「どうだった?」
「何が?」
「入塾テストよ。」
「ああ、まあまあだよ。」
正直自信は全然ない。
僕と千恵はファーストフードで安い昼食を取っていた。
「テラよりはいいクラスになれたよ。」
「そう、良かったじゃない。
これからも努力していけば、どんどんよくなっていくんじゃない?
優介の場合は伸びがいがあるね。」
千恵はいたずらっぽく笑った。
「千恵はどうなの?」
「来週模試を受けに行くよ。バイトも決まったし。」
「あんま、バイトばっかになるなよ。」
「大丈夫よ。週4回だし、近くのコンビニだもの。」
「何処のコンビニ?」
「近くのローソンよ。」
「ああ、あそこか。」
「時給も安いしあんまりお金たまらないかもしれないけど・・。
でも月10万位にはなるみたい。」
「そう。」
僕はストローでカップの氷を突っつくのに夢中だった。
「ケータイなってるよ。」
「う?うん。」
僕のピッチの画面には隆二さんと表示されていた。
何だろ・
涼が見つかったのかな?
「はい、もしもし?」
「あっ。目黒君?今何処?」
「えっ。あの広尾ですけど・・・。」
「今すぐ赤羽に来れるか?」
「えっ?赤羽ですか?ええ大丈夫だと思いますけど・・・。
何かあったんですか?」
僕は千恵の顔を見た。
「ああ、涼が見つかった。」
「涼が?」
「俺も今仕事で池袋なんだ。赤羽で合流しよう。着いたら連絡くれ。」
「えっ?あっああ隆二さん・・・。」
それだけ言うと電話は切れてしまった。
一体なんだ?
どうしたのだろう。
涼が・・・。
何処にいたのだろうか。
「蒲田君がどうしたの?」
千恵が聞いてきた。
千恵には涼の失踪のことは言っていない。
「えっ。ああちょっと。」
「何?どうしたの。」
千恵は僕の動揺ぶりを不信に思ったようだ。
「俺、ちょっと行ってくる。」
「えっ?行くって何処に?待ってよ優介。」
僕はかばんを引っ掛けて、千恵をそのままに店を出て、
赤羽へ向かった。
千恵を巻き込むことはもう二度とできない。
「優介。」
「わりい後で電話する。」