涼 失踪
埼玉から、千恵と一緒に帰って3日後
僕はバイクを取りに再び涼のアパートを訪れた。
家に帰りピッチを充電してから
ことあるごとに、涼の携帯を鳴らしたが、連絡は取れなかった。
あいかわらず、忙しい奴だ。
仕方なしに僕は涼のアパートに直接来たのだ。
上尾の駅から歩いていると、
突然僕のピッチがなる。
{涼かな?}
着信は見慣れない番号。
三日前の着信に残っていたやつだ。
僕は少し警戒した。
「はい・・・・。」
「もしもし・・。」
聞きなれない女の声。
「もしもし?」
「あっ。あのジュエリーのルナですけど、
覚えてる?」
「あっ。あの渋谷・・・。」
「そうそう。」
「なんだよ。ほんとに電話してきたの?
びっくりしちゃったじゃん。」
「う・うん。」
心なしか元気がない。
「どうしたの?もしかして営業電話?」
「違うよ。どうしたかと思って・・。」
「何が?」
「あれ?伊澤さんとかと一緒じゃなかったの。」
「ううん。違うよ。あの人と会ったの久しぶりだったし。」
「そう。じゃあ・・何も。」
「どうした?伊澤さんがどうかしたのか?」
「うん。うちの店めちゃくちゃだよ。」
「!」
「あの後、怖い人たちが来て、店をめちゃくちゃにしていったんだよ。」
「どういうこと?」
「なんか伊澤さんを探してるらしくて。」
僕の脳裏に斎藤の顔が浮かんだ。
「あの後っていつ?」
「みんなで飲んでた日だよ。だから三日前?」
「嘘だろ。」
「ほんとだよ、優介何も知らなかったんだ。」
「ああ。」
「それで、やばいことになってるんじゃないかと思って、、。」
「そりゃヤバイだろ。」
僕は涼のことが心配になった。
もうアパートはすぐ近くだ。
「悪い、ちょっとすぐかけ直すよ。」
「えっ。ああ。うん。」
僕は電話を切ると急いで涼のアパートへ向かう、
アパートの下には僕のSRが静かに停まっていた。
階段を駆け上がると、
涼の部屋のドアを開けた。
案の定鍵はかかっていなかった。
扉をを開けると、中からじめっと冷たい空気が僕を包んだ。
部屋は僕等が出ていったままだ。
机も布団の折り方も。
涼の帰った形跡はない。
涼の仕事の特性上、3日ぐらいあけることはあるだろうが、
携帯も繋がらないのは異常だ。
「ごめん。ごめん。優介だ。」
「あっ。うん。どうしたの大丈夫。?」
「ああ。平気だよ。」
「そう。」
「ところで、伊澤さんの連絡先わかんないかな?」
「えっ。私は知らないけど、お店のボーイさんならわかるかも。
あの時もすぐ電話してたし。」
「そうか。悪いんだけど連絡先聞いてくれないかな?」
「別にいいけど・・。」
「悪い急ぎなんだ。頼む。」
「わかった。すぐ電話する。」
渋谷恵理から電話はすぐ来た。
僕は教えられた番号にすぐにかけた。
トゥルルル トゥルルル・・・
「はい。」
野太い声。
隆二さんだ。
「隆二さん?俺です。目黒です。」
「あっ?あああの目黒君?」
「ええ。今涼のアパートなんですけど。」
「えっ?涼の?」
「ええ。」
少し様子がおかしい。
「涼のやつがあれから行方不明なんだ。
何処行ったかしらねーか?」
!
信じられない言葉を聞いた。
「隆二さんも知らないんすか?」
「なんだ。お前も知らないのか。
あの日あれからどうした?」
「ちょっと、待ってください。隆二さん今何処ですか?
これから行きます。」
「いや。そんなら、俺がそっち向かうから、
アパートで待っててくれ。すぐ行く。
10分ぐらいだ。」
「分かりました。」
涼は何処に行ったのか?
僕はよからぬことを考えないようにしていた。
やはり荒木組がかかわっているのだろうか?
テーブルの上には、千恵が手当てをしたシップのごみが残っていた。
丁度十分経つと、隆二さんのY32がアパートの下に着いた。
「おお。どうなってんだ?」
「あっ。この前はどうも。」
僕は軽く挨拶をすると、早速本題に入った。
「涼がいないんです。」
「そうなんだよな。俺はてっきり目黒君達と一緒かと思っていたんだが・・」
「俺は隆二さんと仕事で一緒かと・・。」
「このところ仕事どころじゃないんだ。」
「ええ。そうみたいですね。聞きました。ジュエリーの件。」
「そうか。・・・思っていたより、やつら根が深い。」
「隆二さんは大丈夫なんですか?」
「狙われているが、大丈夫だ。それより何で上尾に?」
「はい。バイクを置いていったので、取りに来たんです。」
「ああ。表のSRか。」
「ええ。」
「あの後、涼とはいつ別れたんだ?」
「それが、目がさめるともう居なかったんです。」
「何だと。あの怪我で?」
「ええ、今考えるとおかしいんですが、
てっきり仕事かと思っていて・・・・・。」
「と言うことは、あの夜からいねーんだな。」
「どうもそうらしいです。ここにも帰った形跡がないですし・・。」
僕達二人は涼のアパートの狭いキッチンで立ち尽くした。
やはり涼はやつらにさらわれた可能性が高い。
「あのお譲ちゃんの次は涼か。
まったく世話をかけるやつだ。」
隆二さんは冗談めかして言った。
「これからどうします。?」
「うーん。とりあえず、目黒君は地元帰れ。
涼のことは俺が何とかするから。」
「そんな。もとはといえば、俺がまいた種です。俺も一緒に・・・・。」
「まあ、まて。俺自身もだいぶ目をつけられてるし、
自体は結構深刻だ。お前がどうこうできるもんだいじゃない。」
隆二さんの目は本気だった。
その目の奥に決意のようなものが見えた。
「でも、このまま帰るわけには行きません。
俺も絶対ついていきます。」
僕は引かなかった。
当然だ。
親友が僕のせいで、ヤクザに拉致られたかも知れないのに、
黙って帰るわけには行かない。
「わかったよ。でもある程度覚悟しろよ。」
「ええ。」
唾をごくりと飲み込む。
隆二さんの車の助手席に乗り込んで、
僕は隆二さんの言ったある程度の度合いについて考えていた。
一体どういうつもりだろうか。
しかし、逆にいうと死ぬことはないということか。
「隆二さん何か思い当たるふしがあるのですか?」
僕は聞いた。
「ない。」
「じゃあ何か考えてることが、あるんですね。」
「それもない。」
「どうするつもりなんですか?何処に向かってるんです。」
「雲がくれも限界だ。涼まで拉致られたとなりゃ、正面突破しかねーな。」
「まさか。」
「ああ、組事務所に殴り込みだ。」
「・・・・・・。」
車は大宮駅を過ぎ、新都心近くの雑居ビルの前で停まる。
暴対法の影響で、流石に看板は出ていないが、
いかにもそれと分かりやすい感じがした。
階段を二階に上がり、鉄製のドアを開く。
中はソファーと、業務用の事務机が置かれただけの、殺風景な部屋だった。
奥はパーテーションで区切れれていたが、
奥の部屋につながる扉が2つだけ見えた。
若い衆が4人。
にらみを聞かせて僕等を注視した。
「!」
小太りのセーターの男が近づいてくる。
パンチパーマで猫が書いてあるせーたーを着ている。
どういうセンスだ。
「誰だお前?間違えたんじゃねーのか?」
「斎藤はいるか?」
「へっ?」
「斎藤はここに居るのか?」
隆二さんはターミネーターのように話した。
意表をつかれたのかパンチの男はきょろきょろしだす。
その様子を見て、ソファーに足を投げ出して座っていた男が、
その姿勢のまま話す。
「斎藤さんの知り合いかなんかですか?
あの人ならもうここには居ませんよ。」
「なんだと?何処に行った?」
「さあ、なんか上の方で話がついたみたいなんすけど、
俺等には・・・。何かあったんすかね。両腕つってましたけど。」
「そうか。邪魔したな。」
「ところで、兄さん達はどちらで、?」
「太田組の者だ。」
「ああ、そうですか。わざわざどうも。それは失礼しました。
でも、太田組の方が斎藤さんを訪ねて来るなんて、やっぱり何かあったんですね。」
「いや、ちょっとな。」
それだけ言うと隆二さんは事務所を後にした。
本物の極道相手にもヤクザに間違えられるとは。
やはり、隆二さんのオーラはすごい。
「これじゃあ。探しようがないな。」
「ええ。」
車に戻ると隆二さんはハンドルにうなだれて言った。
あたりはもう夕方になってきている。
時計は4時半をさしていた。