死神の部屋
気がつくと、そこに女の姿はなかった。
目の前には見知らぬ部屋の景色が広がる。
綺麗に片付けられた部屋は、
どこか生活観がなく、
まるでテレビドラマのセットのようだった。
しんと静まり返ったその空間は収録中のようだ。
どうやら僕はこの黒い大きなソファーの上で僕は眠ってしまっていたようだ。
ここはあの女の家だろうか?
僕は長い夢から覚めたのだ。
走馬灯のように自分の過去を見る夢だ。
随分と気分が悪かった。
青春時代の思い出は時として僕をこのような気持ちにさせた。
それが何故なのか上手く説明できないが、
とても不快な気持ちになる。
恐怖と混乱が入り混じったような気持ちだ。
もう過去には戻れないという思いの表れだろうか?
僕はソファーから上半身を起こして、
両手で顔をふさいだ。
千恵・涼・・・
全て現在の僕から消してしまいたい過去だ。
運命とはなんだろうか?
僕は発狂してしまいそうだった。
僕にできたことはなんだろうか?
僕にできなかったことは?
頭が痛い。
僕はどうしたいのか?
・・・死にたい。・・・
あの女は?
壁際に女は立っていた。
顔には表情はないが、
とても悲しそうな目をしていた。
その目は全てを知っているのだ。
僕は直感的にそう感じた。
本当の死神なのだ。
僕の死は近い。
そうきっと死ねるのだ。
この苦しみからされるのだ。
暴力と欲望が支配するこの世の苦しみから、ようやく抜け出せるのだ。
女の顔を見る僕に、死神はただ冷たく悲しそうな目をするだけだった。
その目を見ていると、僕は自分の存在がとても惨めに思えた。
女は続きを見せるに違いない。
僕の知っている僕の過去の続きを・・・。
僕はこの先を知っている。
思い出したくもない。
死神は僕に見せるに違いない。