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参道・乱闘


[それで、どんな悩みなんだ?

話してみろよ。」

隆二さんはセブンスターに火をつけて、

僕らに問い掛けた。


下の居酒屋は上のキャバクラとはうって変わって、

落ち着いた不陰気に満たされていた。

僕らは一番奥の座敷に通された。

一番奥に隆二さん、テーブルを挟んで、僕と涼が座った。


隆二さんはウイスキーのあとに生ビールだ。

飲み方もめちゃくちゃだ。


「はい。実はちょっと厄介なことになりまして。」

「どういうことだ?」


「ちょっと待て、俺から解りやすく説明する。」

涼は竹輪磯辺を食べながら言った。

「なんで、お前が・・。」


涼はちくわの磯辺揚げを、全て飲み込んでから、

これまでのいきさつを隆二さんに話した。

もちろん自分が今日千葉に行かなかったことだけを隠して。

なかなか上手く説明するなと感心した。


「なるほどな。」

隆二さんはジョッキのビールを飲み干して言った。

「俺は女を物みてーに扱う奴はすきじゃねー。

荒木組の斎藤か。いけすかねえ野郎だ。

それでお前はどうしたいんだ?」

「何とかその斎藤さんと話がしたいと思っています。」

「話ねぇ・・・。」


隆二さんは少し考えているようだった。

「涼。今何時だ?」

「えっ。今十一時半ですけど。」

「そうか。じゃあまだ間に合うな。」

「えっ。何がですか?」

「涼。ワリいけど車持ってきてくれ、いつものところにある。」

隆二さんはポケットから、キーケースを涼に投げた。

「えっ。ええはい。」

涼はキーケースを持って、店から出て行った。


「隆二さん。どうしたんです、何処に行くつもりなんですか?」

「話を聞いてたらなんか胸糞悪くてよ。

今からその斎藤に会いに行こうと思ってな。

おっちゃんワリいおあいそして。」

「あっ。はい。いつもありがとうございます。」


店の主人は人のよさそうな笑顔を見せた。

「会いに行くって、何処に・・。」

「いいから、俺に任せとけって。」


店の外にグロリアのY32が止まった。

丸目4灯の奴だ。


「よし。乗れ。」

僕は言われるまま、後部座席のドアを開け、乗り込んだ。

運転しているのは、涼だ。

隆二さんは助手席に座り、旧中を大宮方面とだけ、涼に言った。


車は旧中を直進していた。

「俺も免許取ったんだぜ、今グロリア買おうと思っててな。

Y31な。グランツーリスモSVでいいのがあるんだよ。」

「なんだお前単車は卒業か?」

隆二さんが聞いた。

「そんなんじゃないっすよ。ただあのグロリアがほしくなっちゃって。」


「31は確かに角張っていいな。」

僕は涼に答えた。

「だろ。ローダウンしただけで、ビット決まるのはあの車ぐらいだぜ。」

「ヤン車思考だなお前たち。」

隆二さんは冷静に言った。


「まだ、まっすぐでいいんすか?」

「ああ。モーターパークに入れてくれ。」

「えっ。ああ、あの南銀の?」

「そうだよ。」


夜なので車はあっという間に大宮に着いた。

駐車場に入れると、

隆二さんは旧中を歩き、南銀の吉牛を駅とは反対方向の、

右に曲がる。

市役所のほうだ。


少し歩いて雑居ビルの前で、隆二さんは足を止めた。

「どうしたんですか?」

涼が訪ねる。

「いたよ。」

「へっ?」

隆二さんの視線の先には、黒いスーツを着た男が2人歩いていた。

一人は隆二さんと同じような眼鏡をかけた、

背の高い男。

もう一人は恰幅のよい、

髭の男だ。


あの2人のどちらかが斎藤なのか?

「隆二さん。」

「あの眼鏡野郎が斎藤だ。」


「えっ。知ってるんですか。」

「ああ。奴とは仕事上何回かバッティングしたことがあってな。」


「でもなんで、ここにいるって・・。」

「俺の商売を何だと思っているんだ。情報は飯の種だぜ。

奴はこの先のパブを行きつけにしている。

それに通りのこっち側は奴らのシマだ。

この時間なら間違いなく会えるよ。」


「シマですか?」

「造花なら2万、おかずのないの弁当が千円、

あとは卵が一個百円だ。」


「?」


「やっぱり、2部とのつながりが深いか。」

「2部?」


僕は何のことかまったく解らなかった。


斎藤たち二人組み近づいてくる。

本当にあれがヤクザか?

ただの酔客にしか見えない。


斎藤は黒のシングルコート。

年は30前後だろうか?

オールバックに眼鏡。

クレバーそうだ。


「おや。今日は珍しい人をみかける。」

斎藤は隆二さんに気がついた。

「・・・・・・・。」


もう一人は下品な笑いを浮かべて、話す。

「へへ。伊澤。景気いいみたいじゃねーか。

お前もいっちょ前に南銀で飲めるようなったか。」


「斎藤。話がある。」

「ほお。さらに珍しい。

私に用があるのですか。」

「ああ。ワリいがちょっと付き合ってくれ。」


「お前誰に物言ってんだ?いつからそんな口利けるようになった?」

太った男が隆二さんにからむ。

「お前には用はない。」

「なんだと。コラ。お前それ看板しょっていってんのか?」

「俺に看板はない。」


「藤原さん。」

斎藤は手で太った男を制す。

男はまだおさまりが付かないようだ。


「あいにくですが、まだ仕事が残っていましてね。

今日中にあと2・3件回らなくてはならないんです。」

「仕事?」

「ええ。」

「せこい言い訳で逃げるつもりか。」

「何?今なんと?」

「逃げるのかって言ったんだよ。」

「伊澤さん。それは喧嘩を売っているのですか?」

「ああそうだよ。」

「ははは。悪い冗談はよした方がいいですよ。

今のは聞かなかったことにしてあげますから、

早く帰ったほうが身のためですよ。」

斎藤の目つきが鋭く変わる。

「・・・・・・。」


「闇金風情が調子に乗りやがって。」

藤原が隆二さんにつかみかかる。


「隆二さん。!」

涼が声をかけた。

いつのまにか周りにはギャラリーが集まり始めている。


「解りました。ここでは人目につきます。

場所を変えましょう。」


張り詰めた空気の中、僕ら5人は参道へ移動する。

参道は静まり返り、人気もなかった。

所々薄暗く街灯が射すだけだ。

僕は興奮を押さえ切れなかった。

涼もかなり興奮している様子だ。


「それで、一体何の用です?

先日の件は納得いただけたはずでしたが?」


「ああ。その件じゃねーよ。

こいつが話があるんだ聞いてやってくれ。」

隆二さんは顎で僕を指した。


「この子が?さて、どこかでお会いしましたかな?」

「いや。会ったことはありません。」


「じゃあ何です?」

「千恵。千恵を返して下さい。」

「千恵?」

「ええ。ピュアガールで働いている子です。」

「ああ。あの子。セックスしたいって自分からいってきた子ですね。

困ったものです。

最近はそういう子が多くて。」


「千恵はそんなこといわねー。」

涼が怒鳴る。


「なんで、あなたがそんなことを言うのですか?

働くのは本人の自由でしょ。」

「でも、何とか助けてやりたいんです。

辞めさせてください。」


「無理ですね。あの子にはお金を前渡ししていますから。」

「金なら俺が働いて返します。」

「無理ですよ。利息も含めて300万にはなるのですから。

あなたに払えるのですか。」


「300万?」

「冗談じゃない。本人に聞いたら今のところ受験料だけじゃねーか。

いいところ10万てとこだろ。」

涼が再び吼える。

「あなたも金融屋ならわかるでしょう。利息は膨れるものですよ。」

「てめぇ。ふざけんな。」

涼が飛びかかろうとする。

斎藤は軽く身をかわした。

「おお怖いですね。伊澤さんあなたの舎弟は。

元気がいいですね。若いうちは何事も考えなく突っ込めるとは

いいことです。」

「何いってやがる。」


「まあそういうことですので、話は済んだみたいなので、

これで失礼しますよ。」

「ちょっと待ってください。」

「まだ、何か?」

「何とか千恵を辞めさせてくれないでしょうか?」


「小僧。てめぇもわかんねー奴だな。

金がねーなら無理。こっちはもうそれだけかけちまってるんだよ。」

藤原が顔を近づけて言う。


「いけすかねーな。」

隆二さんが口を開く。

「伊澤さん。あなたまで何か・・。ブフッ。」

次の瞬間。隆二さんの拳が斎藤の顔面を捉えた。


「俺は女を道具として扱う奴は好きじゃねーんだ。」

「隆二さん。」


「伊澤てめー。何してるか分かってんのか?」

藤原が隆二さんにつっこむ。

胴タックルを受けた隆二さんは、後ろに倒れこむ。


やばい。

マウントだ。

僕はすかさず横から藤原の太い腹を蹴り上げる。

「ううっ。てめー。」

その刹那僕の頭は後ろからつかまれた。

「優介。」

涼が叫ぶのと同時に、顔面に強烈な一撃を食らった。

斎藤の手袋の感触。


久々に人に殴られた瞬間、僕の頭は真っ白になった。

「うぉぉぉぉ。」

斎藤に殴り掛る。


斎藤は華麗に交わす。

後ろの涼は回し蹴りを喰らい、前のめりにかがみこむ。


5人入り乱れての乱闘だ。


隆二さんは斎藤の襟首をつかんで投げた。

ゴッ。

地面に鈍い音が響く。


「喧嘩の仕方教えましょうか?」

斎藤はつばを吐きかけ隆二さんは目をつぶってしまった。

「うっ。」

斎藤はしたから隆二さんの右腕をつかみ、

引き倒した。


僕は藤原を捕まえて、膝蹴りを叩き込む。

かがんだところに、脊髄にエルボーだ。

「ぐえっ。」

そして僕の右拳は

藤原の顎を捕らえた。

「げっ。」

アッパーを受けた藤原は後ろに倒れこむ。


久々の感触に拳が痛い。

 

涼は斎藤に殴られていた。

「大人の喧嘩はこうですよ。」

涼は頭をつかまれ街灯に叩きつけられた。

「ぐひぃー。」

ゴーんという鉄の音がなる。


「涼!」

斎藤は冷徹ににやりと笑う。

「てめー。」

僕が飛びかかろうとすると、

斎藤の後ろから、隆二さんがスリーパーのような形で、

チョークを閉める。


「ぐぐぐっ。」

「本当に殺すぞ。」

「ぐぅ。伊澤。こ・んなことして、ただで・・済むと思っているの・ですか?」

「殺しちまえば分からない。」

隆二さん歯を食い縛りながら言った。

本当なのか脅しなのか分からなかった。


「荒木・・組を敵に回す・のですよ。」

「ああお前が生きて帰ればな。」

隆二さんの額からは血が出て眼鏡も曲がっていた。


「ぐっ。」

「明日からあの娘から手を引け。」


「ぎぃ。・・うう。」

「いいな。手をひかねーと俺が殺人犯になっちまうぞ。」


「うう。わかぅ。わかったから・・て・てを・・」

「よし。約束だぞ。」

隆二さんは手を離して突き飛ばした。


「げへぇぇ。ごほっ。ぐほっ。」

斎藤は両手をついて四つんばいになって息を整えていた.


「約束は守れよ。」

「ごほっ。ぐほ。」


隆二さんは四つんばいの斎藤の腹を蹴り上げた。

「ぐええぇぇ。」

斎藤は仰向けに倒れた。


「返事がねえからな。」

「ううっ。わかっ。ぎやーー。」

隆二さんは斎藤の左腕を思い切り踏みつけた。


「返事が遅いからな。」

「わ・分かった。必ず守る。」

「じゃあ今すぐ、開放しろ。」


「ううっ。」

隆二さんは落ちていた携帯を蹴って、斎藤のもとへ転がした。

斎藤は右手で操作してどこかに電話をかける。

「早くしねーと、次は右腕行くぞ。」

「ああっ。」


「・・・・。」

「おっ。俺だ。斎藤だ。

わけはいいからこの間のナナに家に帰るよう伝えろ。

金の件ももういいと、

いいからそう伝えろ。今すぐだ。」

「この時間だ今から迎えにいくから、エントランスで待たせろ。」

「えっ。!・・エ・エントランスで待つよう指示しろ。」


隆二さんは携帯を切るよう指で合図した。

斎藤はそれに従った。


「よし、上出来だ。」

言葉と同時に隆二さんは、斎藤の右腕を同じように踏みつけた。

「ぎゃーーーー。」


呆然と立ち尽くす僕に隆二さんはにっこり笑った。

僕もひきっつた笑いを返した。


左半分血で染まったその笑顔に冷たい恐怖を感じた。

やはりあの隆二さんなのだ。


僕と隆二さんは、両脇で涼を抱え、引きずりながら車に戻った。

涼の意識はなかった。


車に戻ると隆二さんは運転席に座りどこかに連絡していた。

「ああ。そう。蕨だな。間違いないんだな。」


隆二さんは運転して上尾とは逆へ車を走らせた。

「その子を迎えにいくぞ。」

「あ。はい。」


「・・・・・・・。」

僕は車の中でもさっきまでの興奮は収まらなかった。

「涼。大丈夫ですかね?」

「ああ。大丈夫だろう。多分脳震盪だ。そのうち眼を覚ます。」


「あ、ありがとうございいました。」

「何が?」


「千恵のこと。」

「ああ、別にいいよ。前から奴は気に食わなかったんだ。」

「・・・・・。」


「それにしても見事なアッパーだったな。」

「えっ。いや。」


「まだ衰えちゃいないな。」

「はは、そんなんじゃ・・。」


「ああいう奴等は叩く時には徹底的に叩く。」

「はあ。」


「中途半端だと。逆に面倒なことになる。

奴も両腕使えなければ、暫くはおとなしくしてるだろうう。」

「はあ。そういうもんですかね。」


車は浦和橋を越える。

「でも大丈夫なんですかこれから・・。」

「何が?」


「いや、ヤクザの両腕折ったりして。」

「なに、心配いらねーよ。荒木組って言ったって、奴は別に幹部でもねえ。

言いいかえれば下っ端だ。

第一に筋者じゃね堅気の俺にやられたなんて、

いえないだろ。」


とても堅気には思えないけど。

「そうですか。ならいいですけど。」

「それに荒木組内でも奴のことをよく思っていない連中も多いみてー

だしな。」


「・・・・・・・。」


17号の蕨駅入り口を曲がり商店街の一本裏道に入る。


「着いたぞ。」

グレーのマンションの前で止まった。


ここに千恵が?

僕はゴクリとつばを飲み込んだ。





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