切り裂き魔〜怖い夢〜
「大丈夫でしたか?」
宿に入り着替えをすましたリディアに温かいお茶を淹れる
「大丈夫、怪我はないわ。アルフレッドこそ、あのアーロンって男を庇ったとき腕を痛めなかった?」
「私は体の事じゃなくて・・・・リディア様の心の事を言っているんですよ」
心配そうなアルフレッドの声にリディアはどこか遠くを見ながら微笑む
あの時の記憶が舞い戻る
思い出したくない記憶
あなたは誰?
手を伸ばせば届きそうで、すぐに霧となって消えてしまう
だけど、どこか懐かしい匂い
絶対的な安心感
――――――あの日までは。
「っ!!」
急いで周りを見渡せば、そこは宿のベッドの上だった。嫌な夢を見たせいで額には脂汗が噴き出しており体がわずかに震えている。
「・・アル、・・・アルフレッド!?」
不安な気持ちで彼の名前を呼べばすぐに側に来てくれる。ベッドの側に片膝をついて優しい手つきで頬を撫でられ安堵のため息をついた
「・・・私はここにいますよ、怖い夢でも見たのですね。何か温かい飲み物でも飲みますか?」
そういって立ち上がろうとするアルフレッドの服の裾を掴む
「・・・飲み物はいらない」
「そうですか」
涙目のリディアが落ち着くまで優しく頭をなでる。何度も何度も・・・
「昔の夢を見てた――お父様とお母様、それにお兄様・・・みんなの側に走っても、手も届かない・・・それなのに、皆はどんどん遠くなる・・」
ぽつり、ぽつりと呟く声にアルフレッドの胸が痛くなる
「いやだ・・・・・ひとりはいやだ・・!」
ベッドの軋む音がした。強張って小さくなった体に腕が回され抱き締められる
「私が側にいます、リディア様の側にずっといますからリディア様は1人ではありませんよ」
短くなってしまった…汗