籠の鳥 【月夜譚No.426】
掲載日:2026/11/01
ふと見上げた空を小鳥が気持ち良さそうに泳いでいる。窓枠に切り取られた青空は小さいが、本当はもっとずっと大きく広がっていることを、彼女はもう知っていた。
腰かけた椅子の座面は柔らかく、長く座っていても疲れはあまり感じない。纏ったドレスはレースやリボンがあしらわれ、髪も毎朝使用人が整えてくれる。日に三度の食事は美味しくて、けれどそれも少々飽きてきた。
何不自由のない、贅沢な暮らしだと解っている。それでも町中を走り回る襤褸を着た子ども達が羨ましいと思うのは、ただの我が儘なのだろうか。
ぼんやり窓の外を眺めていると、窓の端に小鳥が留まって、彼女は目を丸くした。そっと立ち上がり、窓辺にゆっくりと近づいていく。しかしその円らな瞳と目が合った瞬間、小さな身体は空の中に飛んでいってしまった。
何も触れられなかった指先が冷たい。それを隠すようにスカートの襞に手を差し込む。
「お嬢様」
扉の外からの声掛けに短く返事をする。
籠の鳥は、自由に空を羽搏けない。彼女は決められた責任を果たす為、入室してくる使用人に目を向けた。




