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静かすぎるマンション

掲載日:2026/06/26

 使いかけのスマホをベッドに放り投げて、26歳の里香は改めて寝転がる。スマホでは、相変わらずのチャットのやり取りが続いていた。いいんだけどさ、何だかね、というのが里香の本音であった。とはいうものの、今さらながらのスマホ社会である。時代に逆らうというのも何だか気が引ける。といってさ、と思うのである。

 里香のマンションは、都心から離れた辺鄙な住宅街の外れに位置している。それにしても、と里香はゴロゴロしながら思う。このマンションって、静かよね、気持ち悪いくらい。住んでる人いるのかしら?訳分かんない。

 今日は休日だ。彼女の勤め先は、都内にある二流ファッションブティックの店だ。店員を勤めて二年になるが、来るのは、バーゲン品を求めてやって来る主婦たちばかりで、さっぱり売り上げが上がらない。まあ、仕方ないのだが。

 ベッド脇のスヌーピー柄の置き時計を見る。午前10時過ぎだ。

 何か音楽でも聴こうかな、と里香はCDプレーヤーに向かう。今の気分、何がいいかしら?

 とりあえず、お気に入りの中島みゆきでも聞くか。

 みゆきは、里香が学生時代からのファンである。当時、学校の先輩からカセットテープで借りて聞いていたのだが、彼女の唄の「振られた女」のイメージに感銘と共感を受けて今に至る。暗く静かなテンポも里香の感性によく合った。

 それで、ひとまず彼女の「悪女」をかけることにした。振られた女の定番曲だ。メロディーが流れ出すと、ゴロンと横になって耳を澄ませる。言葉に耳を傾ける。

 悪女になるなら

 月夜はおよしよ

 素直になりすぎる

 隠しておいた言葉が

 ポロリこぼれてしまう

 「いかないで」

 何だか眠くなってきた。いかん、いかん。紅茶でも飲む?居間へ行く。好みのアールグレイのパウダーは、キティちゃんのグラスボトルに入れてある。匙ですくい、熱いホットミルクティーで飲む。まずまずの味だ。イケルよね。

 その時だった。里香の頭の上から、話し声が聞こえてきた。若い男の声だ。誰かしら?

「ああ、母さん、俺だよ、蓮だよ。今ついたよ。これから荷をほどこうと思って。.................、うん?いいから、いいから。俺、心配しないでいいよ、もう32歳だぜ、子どもじゃねえよ。また落ち着いたら、連絡入れるから。そいじゃあ」

 上の部屋に引っ越してきたらしい。蓮、32歳。何だか気にはなった。それにしても、電話の話し声まで聞こえるって、ここ、静かよね。嘘みたい。でも、何だか罪悪感めいたものも里香の心に芽生えてきた。人の私生活に入り込んでいるような気がしたのだ。でもそれなら、と里香は思った。あたしだって丸聞こえのはずよね、お互い様よ。とにかく共同生活というものは厄介至極なものである。

 でも、と里香のうちで蓮という男に少し関心が湧いてきた。どんな人なんだろう?ちょっと気になる。


 蓮は、荷ほどきを一休みして、休憩を取ることにした。部屋は、山積みの段ボール箱と布団袋や、仕事用の大きなピアノが部屋の中央にデンと置かれている。

 それまで、床にあぐらを組んで座っていたが、立ち上がると、肩まで伸びた長髪をパラリと掻き上げて食卓に置いたコーヒーミルに向かう。これも蓮の楽しみのひとつであった。袋からコーヒー豆を取り出す。もちろんレギュラーコーヒーであるから、アラビカ種の豆を使う。銘柄は、モカかマンデリンと決めてある。あくまでも彼の好みである。

 それをじっくりと挽いていく。彼は、元来、物静かで丁寧な性分であった。彼の仕事であるピアノの調律がそうさせたともいえるのだが、生まれつきおとなしい子どもでもあった。平凡に音楽大学の楽理科を卒業して、彼の友人のアドバイスもあって、ピアノ調律の専門学校で基礎からみっちりと学んだ。そこで彼は、ピアノ調律の奥深さと緻密さにあらためて瞠目するのであった。

 コーヒー豆が挽き終わったので、彼は、静かに挽いた粉をドリップフィルターに移す。最近は電動式のコーヒーメーカーも出ているが、彼はあえて自分でドリップしてつくる。フィルターから一滴づつ落ちていく滴を黙ってみているのが何とも言えず心地よいのだ。

 音大を卒業すると同時に、国家資格であるピアノ調律技能士の試験の2級に一発で合格し、楽器メーカーのヤマハと直接に業務委託契約を結んで定期顧客を獲得し、調律器一式を詰めた重い鞄を抱えて出張し調律する毎日であった。

 どうやら、コーヒーが出来上がったようである。まずは、じっくりとコーヒーの香りを味わってから少しずつ味わいを楽しむ。至福の時である。

 

 里香は、ベッドの上で静かに耳を澄ませていた。もちろん、上階の蓮の部屋をである。最初、ゴソゴソと動く物音がした後で、何やら手でガリガリと掻くような音がした。しばらく続いていた間、里香はありったけの想像力で、その物音の正体を推理していた。その結果、見事に彼女は、それをコーヒーミルでコーヒー豆を挽く音ではないかと朝の生活的に無難な正解に辿り着いた。そして、そうか、彼、朝はレギュラーコーヒーを自分で挽いて飲んでるんだと、里香的に新発見をした喜びを感じた。そしてそのあとで、微かだが、コーヒーをすするような音がしたような気もした。あたしはミルクティーだけど、彼、コーヒーなんだ。

 その時、CDの音楽が終わった。何だかつまんないな、どこか出かけようかな?

 何、着ていこうかしら?そうだ、この前買った、ツーピースのオレンジ、まだ着てなかった。それに今日は陽射しがあるから、あのキャスケット被っていこうっと。でも、あたし、どこ行くの?

 とりあえず、智子に電話してみるか?今いるかな、彼女?

「もしもし、智子?」

「どうしたの、里香」

「今、暇?」

「プランターの花に水やりの最中だけど、あんたも暇ね」

「ごめん。出てこれない?」

「今から?」

 その時、突然に頭の上からポロンポロンと楽器を弾く音が聞こえてきた。

「ちょっと待って」

「何よ?」

 どうやらピアノの音らしい。彼、音楽家というかピアノ演奏家かしら?でもないようだ。曲を弾く感じではない。規則的に音階を変えて、ピアノを弾いている感じだ。いったい何だろう?

「じゃあ、11時に駅前ね?」

「ほんとにもう、里香ったら」


 ピアノは楽器じゃない、生き物だ、というのがいつもの蓮の口癖だった。そして、ピアノの調律を「ピアノと対話する」と彼は表現していた。ピアノの大屋根を上げて支棒で支え、まずは「ラ」音を基準として、各オクターブごとにチューニングピンにチューニングハンマーを回して弦の張り具合や、音の質、音感の具合を微妙に耳で聞き分けて調律していく。これは言葉で表現するというよりも、実際に体験してみないと分からない。

 蓮は、およそ2時間の間、耳に全神経を集中させて仕事を終えた。これでいいだろう。

 長い髪をたくし上げ、神経質そうに眉を上げて、蓮は少し休憩を取ることにした。あと、フエルトの張り具合の調整や仕上げ工程が残っているが、ここでブレイクタイムといこう。

 彼の部屋の窓辺の棚には、いくつもの観葉植物の鉢が整然と置かれている。品種も、パキラ、ユッカ、アンスリウム、ポトスなど数々である。彼は、毎日、根気強く枯らさぬように丹念に気を配りながら育てている。彼は、霧吹きの小型スプレーを手に取り、植物の手入れを始めた。


「ふう.....................」

 里香は、両手に紙のバックを山ほど抱えて帰宅した。もうくたくただ。ちょっと歩きすぎたかな?

 とりあえず、買ってきたスイーツかな?美味しそうなマロングラッセとストロベリーマフィンだから食べちゃうか?さっそく食卓でミルクティーの準備をして、パクつく。うーん、デリシャス!たまんないわ!それでひとごこち着くと、またぞろ蓮の事が気になってくる。彼、どうしてんだろ?

 耳を澄ませてみる。やはりそうだ。あのピアノの音の正体には、智子との会話の最中に、頭がおしゃべりで活性化したのか、突然に閃いた。ピアノの調整だっけ、じゃない、調律だ。彼、ピアノの調律師なんだ。たぶん、仕事ね、でも自宅でも、なんて偉い!男よね。でも、今、耳を澄ませてもピアノの音は聞こえてこない。もう終わったんだ、あれって集中いるもんね。たぶんだけど。

 何だか独り言がする。何だろう?

「うん、ポトスは大丈夫だな、葉脈の具合もいい。ユッカはどうだ?うーむ、まあまあ土も湿気ってるし、水は大丈夫か?それじゃ、サンスベリアは?」

 なるほど、これは里香にもすぐに分かった。彼、観葉植物を飼ってるんだ?可愛いな、ポトスか?しかし徐々に里香は卑屈な気分になってきた。何だか彼の部屋を盗聴しているような嫌な気持ちになってきたのだ。あたしって感じ悪い。これには参った。

 そこで気を取り直して、寝室のベッドに寝転がって、テレビのスイッチを入れる。テレビでは、コマーシャルを流している。男優の阿部寛だ。切り立つような崖っ縁をよじ登ってる。栄養ドリンクのCMかな?でも、彼ってイケオジよね、マッチョマンでダンディだし。見惚れちゃう。あれ、またコーヒー豆を挽く音がする。蓮ってよくコーヒー飲むんだ?集中できるのかな?まあいいか?

 あれ、テレビでもコーヒー飲んでる。あれ誰だっけ?えっと、そうそう、大沢たかおだ。彼もオジサンだけど、イケルわよね。

 でも、そんなこと考えてると、蓮がどんな人か気になってくる。駄目ね、あたしって。すぐに影響受けるんだから。

 あれ、またピアノの調律の音がしてきた。彼って仕事熱心なのね、今日、休日なのに。


 ほぼ、全オクターブの調律も終わって、最後の整音の段階に入る。蓮は、肩までの長髪を邪魔そうに後ろに手で束ねて、また眉をひそめ、微妙なピアノのフエルトを針で慎重につつきながら、音を確かめる。順に調整して、最後まで仕上げる。まあいいか?

 蓮の部屋に置いてあるのは、独習用の家庭用アップライトピアノだから、そう剥きになる必要もないのだ。最近は、特にヨーロッパなどで電動のチューナーを使ってピアノの調律をする者もいるが、蓮は手作業にこだわりを持ち、ハンマーでピンを回す面倒臭さに独特の魅力を感じてしまう。

 今日はここまでにするか?

 またコーヒーでも淹れるか?居間のソファに座ってひと休みしてから、明日の荷ほどきのために段ボール箱を部屋の隅にかたづけて、テーブルに向かう。


 里香は考えた。彼、頑張ってるのよね。休日だっていうのに。

 あたしも何か頑張ろうかしら?

 周囲を見渡す。寝室のガラスキャビネットが目についた。文庫本が数冊、無造作に放置されている。といっても、ハーレクインロマンス文庫だ。いわゆる、恋愛小説である。試しに読むか。そこで彼女は、あたしも負けじと、大きな音を上げてページを繰る。あたしだって頑張ってるのよ、って所である。

 しかしである。ふだん、読書など慣れ親しんでいない彼女にとって、それは自虐行為に過ぎなかった。10ページも進まないあたりでついにギブアップしてしまった。それで、だんだんとイライラしてきた。もう、あたしって。

 しかし、その頃に階上から、徐々に、音を上げて心地よいピアノの曲が聞こえてきた。素敵な音色。彼ね。ピアノも弾けるんだ。それに流れるように流暢で澄んだ音だわ。何て曲かしら?

 勿論、クラシック音楽の知識などかけらも持ち合わせない里香にとっては理解不能だ。でも、ジッと耳を澄ませて聞いているだけで何だか幸せな気分になってくる。すごい。ピアノの生演奏よね。いつしか、里香はうっとりとして聞き惚れているうちに、ベッドで眠り込んでいた....................。


 ショパンの夜想曲第2番を一通りに弾き終えた蓮は、鍵盤の蓋を閉じてふうと溜息をついた。彼は、ふだんから指輪をしていない。仕事の邪魔にもなるし、ピアノも弾けたものではない。

 気分転換しよう。ラジオでも聞くか?居間にある大型のチューナーのスイッチを入れ、ボリュームを下げて聞き入る。DJの賑やかな声に集中していると、気分もほぐれてくる。ソファに長身の背中をもたせかけて、頭の後ろで手を組み、ボンヤリと耳を傾ける。仕事で疲れたのか、つい眠くなる。ふと、壁の掛け時計に目をやれば、もう夕刻も近いようだ。あっという間だな。

 と思っていると、携帯の電話があった。出てみて、内心で少なからず驚いた。相手は、日比谷コンサートホールの会場マメジメントの担当者で、今度、会場に常設してあるグランドピアノの調律を依頼ししたい旨の電話であった。どうやら、契約先のヤマハと何やらやり取りがあったらしい。

 蓮にとっては、家庭用のアップライトピアノの調律の経験は多々あったが、グランドピアノとなると大物である。とにかく、彼は承諾の旨を伝えて、細かい日時も確認し、丁重に礼を述べて電話を切った。しかし、彼の興奮は隠せなかった。それでも、持ち前の慎重さから、静かにラジオを切ると、深々とソファに横になった。そのうちに眠くなったのか、ウトウトと微睡んでいた。


 眠っていた里香が、階上の蓮の電話の着信音で叩き起こされた。すぐに耳を澄ませる里香である。好奇心は人一倍だ。あら、彼の仕事の依頼ね。日比谷コンサートホール。すごい。彼、大丈夫かな?でも、仕事に打ち込む男って魅力的よね。素敵。

 と、人のことばかり心配していられない。時刻をみたのだ。そろそろ、夕食作りね。

 今夜は、何つくろうかしら?

 手っ取り早く、餡掛けハンバーグと苺のバルサミコサラダとお豆のサンバルスープでいくか。

 ということで、里香は、いつもの巨大ムーミンのエプロンを着けてキッチンに立つ。このエプロン、デカいのよね。エプロンのすそが足首まで来る。どうみても格好悪い。仕方ないか。

 まずは、ハンバーグの種作りから。食材は皆そろってるから、つくるだけ。簡単、簡単。

 と、蓮の部屋から、大きないびきの声が聞こえてきた。そうか、寝ちゃったか、彼。疲れたもんね。よう寝とるわ。

 せっせと料理作りに励む。そのうちに里香は時間を忘れた。


 ハッと目覚める。しまった、寝過ごしたか。蓮は、ガバッとソファから起き上がると、反射的に壁の時計をみた。夜の7時を回っている。夕飯、喰わなきゃ。

 台所の冷蔵庫の中を覗く。引っ越したばかりで、ろくなものがない。どうしよう?

 駅前の吉野家で、牛丼の定食でも食いに行くか?

 蓮は、ポケットの財布の中身を確かめてから、おもむろに玄関の扉を出て外の空気を吸うのであった。


 あれ、蓮、どこかへ行くのね?と、夕食のハンバーグを口へ運びながら、里香は思った。階上で扉が開いたようだ。何だろう?今の時刻だから夕食かしら?

 まあいいか?また、豆のスープを吸い、サラダを味わう。我ながらなかなかの出来映えである。しばらくして夕食も終え、ゆっくりとひと休みする。これで今日も終わりよね。エプロンを脱ぎながら里香はしみじみと感概する。

 でも、今日は不思議な日ね。スマホからは離れたし、うえの蓮のことは知ることが出来た。そんな日もあって良いと実際に思う。

 またテレビでもみようかしら?

 寝室で、ベッドに寝てリモコンのスイッチをオンにする。たちまちに大きな画面いっぱいに、血まみれの若い男性が暗い路上で苦しんでいる。何よ、これ?

 しばらく見つけているうちに、どうやらサスペンスドラマのワンシーンと気づいた。いつの間にかドラマの世界にぐんぐんと引き込まれる。いったい誰だろう、真犯人?

 

 蓮は、吉野家から、コンビニに立ち寄って帰宅した。満腹の感である。そこであとは、部屋の隅に寄せたベッドに座り、夜の音楽を聴くことにする。彼のお気に入りは、フランスのシャンソン音楽と、ブラジルのボサノバ音楽である。定番の1枚を、CDコンポにかけてソファに寝転がる。しばらくして軽快なリズムが流れてきた。どうやら、イヴモンタンの「セシボン」らしい。耳を傾けて、身を任せていると、そのうちにまた睡魔に襲われてきた。明日も、都内の家庭に出張してピアノの調律の仕事が待っている。このまま眠ってしまおう。


 どうやら真犯人は、財産家の通いの家政婦だった。意外ね、彼女、連続殺人犯に見えなかったのに。そこまで確認すると、飽きたのか、里香はスイッチを切った。自然と耳は蓮の部屋に向く。

 あれ、彼、シャンソン聴いてる。あの曲、何だっけ?

 えっと、「枯れ葉」だっけ、いや違う。「愛の賛歌」だっけ?分かんないや。もういいか。

 あたし、ベッドよね。もう寝ちゃうか?そうしよう。

 明日の出勤に備えて目覚まし時計を掛けて、目を閉じる。でも何だか眠れない。

 こういうときは、無理に眠ろうとしない方が寝ちゃうのよね。ボンヤリと目を開けて、ベッド脇のミッキーちゃんのぬいぐるみを眺めたり、またボンヤリと目を閉じたり。漫然と繰り返しているうちに里香は眠り込んでしまった......................。


 朝のゴミ出しだ。ビニール袋の口を縛りながら、里香は少々、焦っていた。袋は大きいのが3つだ。 両手に提げて、お尻で何とか玄関の扉を開けると、そのまま通路の奥にあるエレベーターに突撃する。なかなか来ない。両手が重くて仕方ない。

 開いた。乗る。すると、彼女の意に反して、エレベーターは上がっていく。1階上で停まる。

 誰か乗ってきた。若い男だ。

 片手にゴミ袋を提げ、長身でスラリとして、長い髪を肩まで垂らし、かなりのイケメン男子だ。

 やだ、タイプじゃん。どうしよう?

 待てよ、1階上よね?

 もしかして。

 そこで、里香は勇気を振り絞って、その男に話しかけた。

「おはようございます」

すると、

「ああ、おはようございます?」

「あのう、変なことお尋ねしますが?」

「はい?」

「何号室にお住まいですか?」

「305号室ですが、何か?」

「いえ、どうも」

 里香は、その場にいたたまれない。1階の扉が開くと、逃げるようにゴミ捨て場へ直進する。                    

 

 やだ、どうしよう、あたし。何よ、この胸のときめき。

 部屋に戻り、ソファに座っても落ち着かない。やだ、やだ、あたし。恋しちゃった。

 あの人よね、蓮って。何度、思い返しても、憧れのタイプだわ。そうよね、こうなったら、女の意地よね。何とか蓮にアタックしてやる。

 今度、デパートで、甘そうな果物でも買って、おすそ分けと嘘ついて彼んち訪問しようっと。

 別に悪くないわよね、近所のよしみだし。それとも、ダイレクトに二人分のコンサートチケット買おうかな?やだ、どうなるの、あたしたち。

 かくも、彼女の妄想はふくらんでいくばかりである。恋する乙女の夢は果てしない。恋せよ乙女。頑張れ。




 

 





 

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