受験前日に異世界召喚されたけど、3日待つと浪人するので5分で魔王を処理した話
俺は高校三年生のタクマ。
明日は第一志望の入試だ。
人生を左右する日を前にして、俺は柄にもなく緊張していた。
──そのはずだった。
気がついたら、知らない場所に立っていた。
「……は?」
石造りの広間。無駄に広い。天井が高い。
目の前には、いかにも“王様です”みたいな格好の男。
いや、待て。
「ここどこですか」
「異世界だ」
即答だった。
「君には我々の世界を救ってもらいたい」
「いや今それどころじゃないんですけど」
思わず食い気味になる。
こっちは明日試験なんだぞ。
「この世界では一年に一度、魔王が現れる」
王は俺の話を完全に無視して続ける。
「だが安心したまえ。魔法の発展により、ここ数年は討伐は容易だ。君にも魔法を与える。怪我の心配はない」
「……じゃあ別に俺いらなくないですか?」
「正直に言おう。面倒になった」
帰れ。
いやほんと帰してくれ。
「あとどれくらいで魔王出るんですか」
「一時間後だ」
最悪だ。
三日で倒せ?無理だろ。
三日あれば試験は終わってる。つまり──浪人確定。
頭が真っ白になる。
でも、ぼーっとしてても状況は変わらない。
「……情報ください」
「ほう?」
「出現場所、能力、倒し方。全部」
「出現場所は毎年同じ。そこへはワープできる。姿は人型。剣を魔力で生成して戦う」
「防御は?」
「魔力がある限り、他者の魔法を弾く」
魔法無効みたいなもんか。
「倒し方は?」
「魔力を枯渇させることだ。魔法を弾くのには魔力がいる。攻撃し続ければいずれは尽きる」
「……正面突破前提ですね」
「まあな」
時間を見る。もう30分もない。
普通に戦ったらどう考えても間に合わない。
そもそも魔法とか今から覚えてどうにかなるわけがない。
──なら。
「一ついいですか」
「なんだ」
「魔王が出てくる“位置”って、完全に固定ですよね」
「固定だが?」
「じゃあそこに、デカい物を出せますか」
王は眉をひそめた。
「どの程度だ」
「一辺100メートルくらいの、めちゃくちゃ硬い立方体」
「……可能ではあるが」
「それ、出現の瞬間に重ねられます?」
「できるぞ」
「じゃあそれでいきましょう」
⸻
それから30分後。
空気が震えた。
「来るぞ!」
次の瞬間──
“何か”が出現した、らしい。
俺には見えなかった。
なぜなら同時に、用意していた立方体がそこに現れたからだ。
鈍い音が響く。
中で何かが動いている気配。
「閉じ込めましたね」
「……ああ」
「魔王は魔法を弾く。でも、魔王“以外”には効くはずです」
つまり箱ごと動かせる。
「これ、そのまま海の底に沈めてください」
「窒息狙いか」
「というか、魔力切れ待ちです」
王は頷いた。
⸻
五分後。
「魔王の消滅を確認しました!」
兵士が駆け込んでくる。
「記録は……五分十秒!」
は?
そんなもん?
もっとかかると思ってた。
「歴代最速だ……」
王が呆然としている。
俺はそれどころじゃない。
「……あの」
「なんだ」
「なんで今まで誰もこれやらなかったんですか」
こんな単純な方法。
少し考えれば思いつくはずだ。
王は、妙に間を置いてから言った。
「それはな」
嫌な予感がする。
「これは試験だからだ」
「……は?」
視界が歪んだ。
気づけば、教室。
机と椅子。
そして目の前には、さっきの王と同じ顔をした試験監督。
「そうだ、あの世界は近年導入された新試験だ。仮想空間で思考力を見る」
「……マジか」
「結果は」
一瞬、間があって。
「合格だ」
全身の力が抜けた。
「……よっしゃああああ!」
思わず立ち上がる。
浪人、回避。
人生、守った。
机の上に置かれた合格通知を握りしめて、俺は深く息を吐いた。
──魔王より、よっぽど怖かった。




