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ビターエンド

やっと晴れた

でも気分は晴れない

昨日はあの『お嬢様』とキスする1センチ手前までいってしまった。

授業中もその光景が過ぎって集中出来ない


あの子が来てくれたから嘘の追求を逃れられて助かったと思った。

でもそれと同時に彼女が来てくれて嬉しいとも思ってしまった。




昼休み、いつものように綾坂がお弁当箱を手に近寄ってくる。


「ナギっちー今日は屋上で食べない?」

「食べない」


晴れっていっても昨日は雨だったから水たまりがあるかもしれないし、屋上ってアニメだとご飯を食べる定番スポットみたいになってるけど実際は埃が多くて汚いと思う。


「えー!?ナギっちと屋上でご飯食べたいよーお願い♡」


そう上目遣いでお願いしながら綾坂はブラウスのボタンを外しだす。

お、お前!?またその禁呪を使う気か!?昼休みの教室だぞ!!


む、紫!?

お母さん許しませんわよ!

幼い身体に似つかわしくない上品な紫のレースの下着に魅入られてしまう




結局私達は屋上でご飯を食べることになった。

私って綾坂の『お願い』に弱過ぎる

何か対策を講じないといけない、このままだと「ナギっちー連帯保証人になってー」て言われて下着見せられたら喜んでサインしてしまいそう


「昨日の話の続きなんだけどサー」


お弁当箱を開ける間もなく、綾坂は話を繰り出してきた。

昨日の話ってあのことか

ガチかどうかの話

あのまま有耶無耶にするつもりだったのに綾坂は許してくれないらしい

私を屋上に連れ出したのはこの為か


「ナギっちってホントはガチでしょ?」

「……正直に言うと分からない」


綾坂の視線が一瞬、私の前髪を捉えた。


「中学の時と聞いた答えと違うね」


中学の時、話の流れで綾坂に女が恋愛対象に入るか聞かれて「興味ない」と答えた覚えがある。

でもそれは『お姉さま』に出会う前の話であり、当時はあんなことがあった直後だったから本当に女に興味が無かった。

あんなことは伏せて答える。


「それは『お姉さま』に出会う前に聞かれたからだし」

「普通の人が抱きしめられただけで好きになると思う?ナギっちの恋愛対象が初めから女だったから好きになったんだよ」

「初めからじゃない、順序が逆、『お姉さま』に抱きしめられたから女の子に抱かれるとドキドキするようになったの」

「じゃああの時、男に抱きしめられても好きになったの?『お姉さま』の正体が女装したおっさんでも愛せるの?」

「ブン殴るぞ」


『お姉さま』の正体が女装したおっさん説は、屋上から放り出すとして、あの時に男性に抱きしめられたら好きになっていたんだろうか?


ううん、その仮定は成立しない

駅のガラガラなベンチで急に隣に男性が座ったら、私は席を立っていた。

目を開けた時にチェックのスカートが見えたから私はその場に留まった。

すね毛とか生えてなかったし


「ごめんごめん、怒らせるつもりはないんだよ。ただナギっちがこのままだと絶対良い結末を迎えないから言ってるだけ」

「結末はまだ分からないじゃん」

「分かる。ナギっちはこのままだと昨日の女の子とキスして退部になる」


痛い所を突かれてしまい絶句する

あの子のことをずっと考えていたのは事実だ

昨日、少し笑ってくれてまたあの笑顔を見たいと思った。


「ナギっちは、あの子と付き合ったら『お姉さま』のこと忘れられるの?別れてからまた『お姉さま』探すんで部に戻して下さいって言っても無理だよ」

「……じゃあどうしろって言うんだよ」


綾坂は座り直してから私を真っ直ぐに見据えた。




「私とキスしなよ」




言葉の意味が分からない

綾坂と『禁忌』を犯すことと『お嬢様』と『禁忌』を犯すことは同じだ

結局、『お姉さま』とは出会えずビターエンド


いや、『お姉さま』が好きな私と星七先輩が好きな綾坂がお互いの隙間を埋める為に付き合うのは、むしろバッドエンドと言って良い


「ナギっちの恋愛対象は女の子だよ。だから『お姉さま』に拘る必要ないし、よく知らない『お嬢様』と付き合うくらいなら昔から付き合いがある私にした方が幸せだと思う」

「私の幸せを想ってくれるのは嬉しいけど、私も綾坂に幸せになって欲しいよ」


恐らく綾坂は私の様子を見かねて言ってくれてるんだと思う

その気遣いは嬉しいけど、昔から付き合いがあるだけでキスするのは違う

私なんかで妥協しないで、星七先輩に本気で想いを伝えるべきだ

綾坂には本気で幸せになって欲しいと思う


「そう思うならキスしてよ」


いつの間にか綾坂に肩を掴まれていた

ぐっと力を入れられて距離が縮まる。


「私とキスして綾坂が幸せになるとは思えない」

「……なるから」

「もう少し考えようよ」

「そんな時間ない、今日もあの子が来るかもしれない」

「綾坂は本当にそれで良いの?」

「良い、後悔させないから色々考えるのはキスしてからにして」

「キスしてからじゃ遅い」

「……その顔、私以外にしないでよ」


綾坂が目を閉じる

もう選択の余地は無い


「あの……」


突然、第三者に話しかけられ、びっくりして目を開けた。

視界に入った声の主の正体に二度びっくりする。


「よりによってお前に邪魔されるのかよ」


綾坂は乱入者を睨みつけた。

睨みつけられた女の子は綾坂から目を逸らして私の方を見る。


「『お嬢様』だよね?」

「はい、奈凪さんの『お嬢様』の『藤詩織』です」


しまったと思った

名乗らせてしまった。

名前を聞くのは『禁忌』に値しないが、麗奈先輩から情を持たないように名前は聞かないで『お嬢様』と呼ぶように指導を受けている。


詩織と名乗った女の子は、あの色素が薄い瞳をした子で、さっきまで話題に出ていた昨日キスしそうになった子だ


今まで抱かれた『お嬢様』と部活以外でもすれ違うことはあったが、恥ずかしいので目が合っても逸らしてきた。連絡先を渡そうとしてきたプレイガール先輩は目が合った瞬間にウインクしてきたけど……


実際に部活以外で『お嬢様』に話しかけられたのはこれが初めて。やっぱりこの子は麗奈先輩が言うように『危ない』のかもしれない


「客が部室以外で話しかけんな。見ての通り忙しいからあっちいって」


綾坂は詩織さんに敵意全開だ

虫でも追い払うように手の甲をヒラヒラさせて追い払おうとする


「良くないと思います」

「……話しかけんなって言ったよね?」


綾坂の目つきが更に厳しくなる。怖っ!ガン付けてるといっても過言ではないよ

詩織さんもたじろぐと思ったが、意外なことに詩織さんは一歩も引かなかった。


「無理矢理キスを迫るのは良くないと思います」


わーどこから見られていたんだろう


「無理矢理じゃないし、そんなこと言うならお前だってナギっちに乳押し当てて無理矢理誘惑してんじゃん。関係ない奴は黙ってろ」

「関係なくないです!」


詩織さんが急に声を張り上げる。怖っ!

大人しそうな人が怒るとニ倍怖くなると思うのは私だけじゃないはず


「ハッ!なんか勘違いしてない?ナギっちにとってお前はただの客だから」

「ただの客じゃないです。私と奈凪さんはキスする寸前まで行きました」

「所詮、寸前止まりじゃん。今から私とナギっちは本当にキスするから」


いやいや、こんな空気でキス出来ないだろ


「キスはお互いが好きで好きで堪らなくなって、言葉だけじゃ気持ちが伝えきれなくなった時にするものです」

「レズ風俗使ってる女がキスを語るな」


レズ風俗ではないだろ

……ないよね?


仲裁に入ろうとしたが、その前に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、口喧嘩は終わった。


「また会いに行きますね。私の奈凪さん」


そう告げると、詩織さんは私を一瞥してから去って行った。


「「私の奈凪さん」だって、きっも」

「私達も教室に戻ろうよ」

「戻るけどさ、あの女は本当にやめて、勝手に恋人の名前のタトゥーを入れてくるタイプだよ」


詩織さんがタトゥー入れてくるタイプかは分からないが、意外と気が強いことは分かった。


屋上から出て、階段を降りている途中で、前を歩いていた綾坂が踊り場で振り返る。


「……確かにちょっと強引だったかも。ごめん」

「いいよ。私のことを想ってしたことだし」

「もう無理にキス迫ったりしない。でもこれだけは聞いて」

「なに?」

「好きな相手にだけエロい顔しろ」


どうやらさっきもそんな顔してたらしい、だから綾坂はあんな感じになったのかな?

幼馴染にもそう見えるとは思ってなかった。


教室の扉の前で、綾坂はもう一度振り向いて小さな声で囁く




「元カノからの忠告だからね」




放課後、部室で食べ損ねたお弁当を食べようとすると麗奈先輩に注意される。


「部室でお弁当を食べるのは感心しないわね」

「……ここがレズ風俗だからですか?」


私の予想外の返答に麗奈先輩は何も含んでないのにブーっと吹き出した。

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