二人の秘密
ソファに座るなり、麗奈お姉さまが腕を伸ばしてきた
私は身を逸らしてそれを躱す。
「がっつき過ぎです!」
「がっつきって貴女ねぇ……今更話すこともないでしょ」
お姉さまは何も分かってない、ムードっていうものを分かってない
舞踏会で王子様とシンデレラがキスして終わりじゃ読者は興ざめしてしまうだろう
王子様がシンデレラを探し当てて結ばれるから感動が生まれるのだ。
「先にあれして下さいよ。顎クイ」
「求められてやるものじゃないでしょ……」
背が高くて美形な麗奈お姉さまは宝塚的な人気があり、何度かお嬢様相手に顎クイしているのをタブレットの画面を通じて見たことがある。
自分がやられているワケじゃないのに凄く胸がドキドキした。
あの麗奈お姉さまの必殺技を自分も体感してみたい
「しょうがないわね……」
麗奈お姉さまが私の顎に手を添えて軽く上げる。顔を向けられた私と彼女の目が合う
なんて綺麗な顔なんだろう、美術の授業で見た宗教画のようだ
無言で見つめ合ってると麗奈お姉さまの顔も仄かに朱が指してきた。
これは……彼女も同じ気持ちなのかな?
顔を近づけようとしたが、顎に添えられていた手に力を込められて前進出来なかった。
「むぎゅ」
「なにしようとしてるのよ」
前進が止まった私の顔から手を放す麗奈お姉さま
私は押さえつけられた顎を擦る
「アゴが割れたらどうするんですか?」
「自業自得よ」
顎はどうやら割れてないようだ
気を取り直して向かい合う私と麗奈お姉さま
「そろそろ良いかしら?部員がソファをいつまでも占領するわけにはいかないわ」
「……その前にもう一つだけお願いがあります」
「今度はなんなのよ?壁ドンしろとか言うつもり?」
「質問に答えるだけです」
「なによ?」
壁ドンも魅力的だが、それより確かめておきたいことがある。
「昨日、愛花先輩と何してました?」
「はぁ?学級委員長だから先生に呼ばれて仕事してたって愛花が説明したじゃない」
「麗奈お姉さまと愛花先輩って同じクラスですよね?学級委員長が二人居ることになりますよ」
「愛花一人だけだと大変だから私が手伝ったのよ」
「……質問を変えましょうか」
二人は前々から少し怪しいと感じていたが、昨日、愛花先輩に抱きしめて貰った時に確信した。
「愛花先輩の首筋にあった痕は貴女が付けたものですか?」
聞いた瞬間、僅かに麗奈お姉さまの目が泳いだ
「……お願いは一つだけって言ったじゃない」
「そうですね、答えなくて良いです。べつにお姉さまに恋人がいても関係ありませんから。私に夢中にさせるんで」
麗奈お姉さまの身体を掴んで引き寄せる
彼女との距離が狭まり、ついには重なる
違う
「違うじゃないですか!」
「だから最初から言ってるでしょ」
「そんな!顎クイまでして弄んでおいて!」
「貴女がやらせたんじゃない」
カーテンを開いて戻ってくる私と麗奈先輩
綾坂に私の「夢中にさせるんで」っていう台詞をイジられるかと思ったが様子が違った。
「……ナギっちが襲われてる時に二人はイチャイチャしてたってこと?」
「綾坂ちゃん……あのね」
「愛花!言わなくていい!」
愛花先輩が何か言いそうになったが、麗奈先輩が途中で遮った。
「私と愛花はそういう関係ではないわ……」
「キスマークは付けてるけど恋人じゃないって言いたいわけですか?そんなの通用する?」
「綾坂ちゃん、麗奈が言ってることは本当なの」
「さっき、先生に呼ばれたとかなんとか言って嘘付いた癖にそんなの信じられない。とりあえず二人共もう一回ナギっちに謝れ」
「いいって!あの金髪の先輩が悪いんだって!先輩たちが謝ることない」
「……でも」
綾坂はまだ納得してないようだったが、なんとか宥める。
私が一番悪い。愛花先輩のキスマークの話はここでするべきじゃなかった。
『お姉さま』探しは大事だけど、周りの人間関係を壊してはいけない
その日の部活はギスギスした空気のまま終わった。




