知らない女の子に私は今日も100円で抱かれている
カーテンで仕切られた狭い部屋
小さいソファーの上で私は女の子と抱き合う
側から見れば、そういう関係に見えるが、彼女とは恋人なんかじゃないし、ましてや友達でもない
知らない女と私は今日も抱き合っている。
女の子が私をもっと強く抱きしめてきた
必然的に彼女の甘い香りが鼻腔を擽り、自分の中に予期していなかった感情が湧き上がる。
私もこの子をもっと抱きしめたい
長く艶やかな黒髪を指で撫でたい、透き通る瞳をじっと見つめたい
心の声が聞こえてしまったのか、女の子は私の胸から顔を離して見つめてくる。
その色素が薄い瞳に吸い込まれそうになる。
こんなに綺麗な子がお金を払って私を抱いてくれているんだ
どちらかと言うと自己肯定感が低いネガティブなタイプなのだが、この状況は私に充足感を与えた。
無意識のうちに女の子の髪を触る。
彼女は一瞬目を見開いてから目を逸らした。
やばい、調子乗りすぎた
ただ抱きしめて欲しかっただけで、そこまでは求めていなかったのかも
慌てて髪から手を離そうしたが、私の手は途中で止まった。
女の子が少し顎を上げて目を閉じたからだ
これってそういうことだよね……
春の陽気に当てられて急に眠くなったとかじゃなくて、キスを待ってるんだよね?
女の子の髪を触ったまま、彼女の唇をじっと見つめる
私が髪に触れたから勘違いしちゃった?
……ううん
勘違いじゃない
この子とキスしてみたいって思っちゃってる
だから髪を触った。私から誘った。
目を閉じて女の子の唇に近づきながら思考を巡らす。
私って女の子が好きなのかな?
たまたま『お姉さま』が女だっただけで、同性が好きだとは思ってなかった。
それとも『お姉さま』を好きになったから女好きになった?女好きだからこの部活に入った?
唇が合わさる二歩手前、意識がはっきりして目を開いた。
……違う
女好きなんかじゃない、『お姉さま』を探す為に私はここに来たんだ
こんな所で『禁忌』を犯すわけにはいかない
無機質なタイマーの音が鳴り響く
『終了』の合図だ
気を悪くしないようにゆっくり髪から手を離すと、女の子も目を見開いた。
酷く悲しそうな顔に心が痛む
こういう時、私はどういう表情をしたら良いのだろう
一緒に悲しい顔をする?それとも微笑を浮かべる?仕事だから無表情?
考えた結果、私は軽く会釈して女の子から離れることを選んだ
けど、一瞬離れた身体は強い力で引き戻される。
彼女は私の背中に手を回したまま離れてくれない
驚いて顔を見ると、大粒の涙を流していた。
「はい!しゅーりょー!楽しんで頂けましたカナー?」
場の雰囲気にそぐわない明るい声が部屋に響く
声の主は同じ『ボランティア部』の部員である『綾坂結衣』だ
綾坂は女の子を無遠慮に私から引き剥がしてカーテンの外に押し出した。
「ねぇねぇ今ギリギリだったでしょ?ギリギリだったヨネー?」
『お嬢様』の女の子が帰った後、綾坂にイジられる
部員と客が疑似恋愛をする場所はカーテンで仕切られているが、監視カメラ替わりのスマートカメラで『禁忌』が行われないように監視されている。
うう……分かってはいたけど、一部始終を見られているのはやっぱり恥ずかしい
「はぁ!?全然ヨユーでしたけど!それとも綾坂みたいなお子ちゃまにはあれが本気に見えたのかなー?」
本当は余裕どころか陥落寸前だったけど、私は精一杯の虚勢を張って反論した。
私の虚勢は綾坂にバレバレだったようで、彼女は目を細めて笑う
「まぁ『禁忌』に触れなければ何でもいいけどネー」
そう言いながら、彼女は私が座っているソファーの隣に腰掛け、肩に手をかけてきた
「な、なに?」
「ンー?あんな状態で終了しちゃったから欲求不満なのかなって」
「……そんなわけないじゃん」
「てかあんなのどこで覚えたん?」
「あんなのって?」
「これ」
そう言って綾坂は私の前髪に付いている髪留めに軽く触れてから頭を優しく撫でてきた。
綾坂は小柄で所謂『妹系』の女子だ。校則ギリギリの茶髪を耳上で二つ結びにしている容姿もそれに拍車をかけている。
私の幼馴染で同じ一年のクラスメイト、いつも明るくて甘え上手な彼女は部活でも主に上級生から人気がある。
そんな『妹系』の彼女に優しく髪を撫でられて不覚にも身体が熱くなった。
どうしたん?今日の私……
綾坂まで意識するようになってる?
これはさっきの女の子があんなことをしてきたからその余波だよね?
否定する心とは裏腹に身を任せてしまう
心地良いと感じてしまっている自分に気付く
チョロ過ぎだろ私、チョロ子じゃん
いつしか綾坂は頭を撫でるのを止め、真剣に私を見つめていた。
いつもニヤついている表情とのギャップが凄い、こんなのズルいよ
私も綾坂を正面から見つめる
鏡を見なくても自分の顔が赤くなってるのが分かる。
「そこまでになさい」
冷酷な部長の声ではっとさせられた
彼女は腕を組みながら氷よりも冷めた目で私達を眺めている
「テヘッ!残念だったネー」
「綾坂、また私をクビにさせようとしただろ」
「なんのことですカナー」
綾坂は悪びれもせず舌を出す
あざと過ぎる
コイツ自分が可愛いって分かってるからこういうこと出来ちゃうんだろうな
「はぁ~こんなことで探せるのかな?」
家に帰ってから着替えもせずにベッドに寝転がる
私は不特定多数の女の子とイチャイチャしたいから『ボランティア部』に入ったんじゃない
『お姉さま』を探す為に仕方なくいかがわしい部活に入ったんだ。
だから『お姉さま』を探し当てるまで『禁忌』を犯して部活をクビになるわけにはいかない
そう改めて決心した。決心したんだけど……
今日は二回も『禁忌』に触れそうになった
脳裏にあの女の子の髪を撫でた感触と、綾坂に撫でられた感触が蘇る。
なんであの時、ドキドキしちゃったんだろ?
『お姉さま』だけが好きなはずなのに……
寝返りを打って考えたが結論は出なかった。
この先、我慢できなくなって『お嬢様』にキスしちゃったらどうしよう
私……『夜凪奈凪』の部活動は前途多難だ
読んで頂き誠にありがとうございます。
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