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声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~  作者: 白川ちさと
シルフ編

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第八十二話 翼


 黒い雲の中は雨風が吹き荒れ、稲光が光っていた。すぐそばを稲妻が走り、避けるようにサラマンダーが滑空する。すぐ近くで鳴る音に思わず肩をすくめるけれど、わたしはすぐに前を向いた。





「シルフ! あなたの影はどこ?!」




 マントのフードを被って尋ねる。手にはすでに武器化したホムラの弓を装備していた。




「今は風に溶けて君たちの目には見えなくなっている! この風を少しでも止めるんだ!」




 シルフは簡単に言うけど、風を止めるってどうすればいいのか――


 イオも眉間にしわを寄せている。




「俺には無理だろう。出来るとしたら風で相殺することだが……」




 確かにこれだけ広範囲となると、炎や土では対抗しきれない。イオが後ろのシュルカさんとルーシャちゃんを振り返る。




「ま、まさか、こんなに強い風に対抗するなんて」


「俺でも不可能だ」




 それはそうだと思う。向こうは超自然現象みたいなものだ。話している間も、サラマンダーは大きく風に揺さぶられている。飛行機に乗っているときの揺れなんて、比じゃないくらいだ。




「シルフは? シルフなら、二体も影を吸収したんだし、行けるんじゃない?」




 言ってみたら三対一の対決だ。こちらに利がありそうだけど、シルフはルーシャちゃんの精霊石の中にいるまま答える。




「いいや。吸収したばかりだからかな? 僕の力には、なり切れていない。補助ぐらいなら出来ると思うけれど」




 土はダメ、風もダメ、そうなると出来ることは……




「サラマンダーがブレスを吐いたらどうかな? 炎って風も起こすでしょ? それにシルフの力が加わったら強い風になると思うの」


「俺たちに向かって来た炎の竜巻を今度はこちらから起こすのか。いいかもしれない」




 イオも賛成してくれる。




「どうかな。サラマンダー、シルフ」


「吾輩は構わぬ。こうして飛んでいるよりも、炎を噴く方が得意であるしな」




 シルフがルーシャちゃんの精霊石から出てきた。




「ああ。僕はそのブレスに風を送るよ。合図はユメノに任せた」


「了解!」




 サラマンダーがブレスを吹いて、シルフがそれに追い風を送る。そうすると風が相殺されて、影が出て来るはずだから私の弓で仕留めるのだ。たぶん、チャンスは一瞬。




「俺がユメノを支えよう。フリント」




 イオはキツネの土の精霊を呼んで、土でしっかりわたしの腰をサラマンダーの背中に固定させた。これで不安定な背中でも、立って弓で狙える。




「じゃあ、次に正面から強い風が来たら炎を吐いて、サラマンダー」


「よかろう」




 風は縦横無尽に吹いている。それに耐えるだけでも必死だけど、サラマンダーにがんばってもらうしかない。右、左、後ろから、そして……




「今だ!」




 風が向かい風になった。そこにサラマンダーが大きくブレスを吐く。白くて熱いブレスは影ごと焼いてしまいそうだ。そこに、スクリューを巻くようにシルフの追い風が吹く。




「……いや、これ完全にやりすぎじゃない??」 




 黒い雲に穴が開いて、青空が見えるようになった。


 光も差す。風もピタリと止まっていた。




「ユメノ! あそこだ!」




 イオが肩越しに指さす方を見る。ブレスが消えた場所にシルフの黒い影が、ヘロヘロの状態で浮かんでいた。やっぱり、やりすぎだ。




「わたしの出番はなさそう」


「いや、早く撃て!」




 シルフが叫んだ。しかし、それに素早く反応出来ない。シルフの影は風の速さで、わたしたちのすぐ近くに飛んで来た。黒い触手のような尖った何枚もの羽をサラマンダーに向けて伸ばす。完全にカウンターを取られた。




「うぉおお! なんと!?」




 首の辺りを攻撃されたサラマンダー。思わず大きく背をそらしてしまう。その背中には、わたしたちが乗っているわけで。固定していた土の鎖も破壊されてしまった。




「きゃ、きゃあああ!」


「ルーシャちゃん! シュルカさん!」




 わたしは土でサラマンダーに固定されていたから無事だし、すぐ隣にいたイオもそれに捕まった。でも、ルーシャちゃんとシュルカさんが、サラマンダーの背中から落ちて行ってしまったんだ。





  ◇◇◇◇





 黒い雲も突き抜けて二人は落下していた。ルーシャは先に落下して行くシュルカに手を伸ばす。




「シュルカさん!」


「……」




 シュルカは全身に火傷を負っていた上に、衝撃を受けたため気絶していた。精霊を呼び出すことも出来ない。ルーシャは何とかその手を掴む。




「ミルフィーユ出ていらっしゃい! 風を纏うのですわ!」




 ルーシャの風の精霊の小鳥ミルフィーユが出てきた。ルーシャの声に応えて、羽根を広げ身体を大きくしていく。

しかし、落下していく二人を引き上げることは出来なかった。ルーシャを運ぶだけで、よろけるぐらいだ。ユメノの場合は軽かったが、シュルカは大人の男で重い。




「シュルカさん! 起きて! 精霊を呼び出して!」




 必死に呼び掛けるがシュルカは気絶したままだ。ルーシャたちはなすすべもなく落下していく。




「大丈夫だよ」


「え? あ! シルフ!」




 いつの間にかシルフが横を飛んでいた。ルーシャはいくらか安堵する。シルフなら人を二人運ぶくらい簡単だろう。これで助かったのだ。


 しかし、そう思ったのはつかの間だった。




「ルーシャ。君は風を恐れている」


「何を戯言(ざれごと)をおっしゃっていますの? 早く助けてくださいまし!」


「風を恐れてはいけない」




 シルフはルーシャに語り掛けるばかりで助けようとはしない。そうしている間にも、どんどん落下している。




「ルーシャの中の風を信じるんだ。君になら、どんな風にも立ち向かえる」




 シルフが何を言っているのか分かった。


 ルーシャの中に吹き荒れる風。それはシウンの村の人間なら誰でも感じ取れるものだ。それは心地よいものでもあるが、時に強く吹きすぎルーシャを怖気づかせる。




「……でも」


「いま、君は全身に風を感じている。怖いかな?」




 シルフにそう言われると、落下する怖さはあっても、吹く風には怖さを全く感じなかった。


 自分の中の風の方がよほど怖い思いをしたことがある。それは全身が中から引き裂かれるような風だった。




「大丈夫さ。ルーシャの中の風は、絶対にルーシャ自身を傷つけたりしない。信じるんだ」


「信じる……」




 やがてルーシャは頷いた。そして、ミルフィーユを見つめる。




「ミルフィーユ。行きますわよ」




 ルーシャの中に強い風が吹き荒れ、緑の光に包まれた。











 わたしたちはルーシャちゃんたちを追いかけられなかった。サラマンダーは態勢を整えるだけで精一杯だ。代わりにシルフが任せてと言って、追いかけたので大丈夫だろう。それに、危機はまだ去っていない。




「来るぞ!」




 イオが叫ぶ。サラマンダーは羽を羽ばたかせて襲ってくる風を避けた。




「うおおお!」




 地上では無類の強さを持つサラマンダーだけれど、空ではシルフの影の方に圧倒的に強い。サラマンダーが風に煽られてその巨体を揺らす。ブレスで応戦するけれど、それも一時的な効果しかなかった。わたしの弓も、シルフの影はするすると避けてしまう。




「そもそもシルフがいないんじゃ、吸収も出来ないよね」


「だが、戻ってくるまでに弱らせる必要はあるだろう」




 イオも岩を作り出して飛ばしているけれど、中々当たらなかった。このシルフの影は、空にいるせいか今までの影よりも速い。ビュンビュン風を切って飛び、サラマンダーに攻撃してくる。ブレスで黒い雲は少し晴れたけれど、やっぱり雨風は強かった。




「まずいであるな。一度退くのも得策かもしれぬ」




 サラマンダーが弱気になっている。けれど、それも仕方ないのかもしれない。どう考えても、戦いになっていなかった。


 そう思ったときだ。




「皆さま! お待たせしましたわ!」




 ルーシャちゃんの声だ。




「ルーシャちゃん! ……え!」




 振り向いて驚いた。そこにいたのは、シルフに連れられたルーシャちゃんじゃない。




「わたくし……、わたくし! ついにやりましたの!」




 興奮した声で言うルーシャちゃん。腕には気絶しているシュルカさんを抱えている。そして、背中には真っ白い翼が生えていた。その姿はエレメンタルハーフの人々と同じだ。




「もしかして、ミルフィーユと融合したの!?」


「そうですわ! ここはわたくしにお任せください!」




 ルーシャちゃんは、サラマンダーの背中にシュルカさんを置いて飛び立つ。真っ直ぐ、シルフの影に向かった。




「ルーシャはね。ただ、怖かったんだ」


「シルフ」




 いつの間にか、シュルカさんの横にシルフが立っている。




「僕の子孫が自分の中の風に怯えることは、よくあることなんだけど、ルーシャの場合力が強すぎた。それが自分の身体を引き裂くんじゃないかって思えるくらいね」




 ようやく納得が出来た。シルフは本当に力があるから、ルーシャちゃんの精霊石に宿ったんだ。




「だから……、強すぎる力を解放出来ずにいたんだ」


「そうだよ。でも、今回のことで荒療治になった。ルーシャは風、そのものにだってなれる!」




 なるほどと思った。風にもなれる女の子。それがシルフに相応しくないはずがない。


 一方のルーシャちゃんは、シルフの影と追いかけっこをしていた。シルフの影は相変わらずかなりの速度で飛んでいる。だけどルーシャちゃんはすぐに追いついて並走する。とんでもないスピードの応酬だ。




「さあ! 観念なさい!」




 杖を突きだすルーシャちゃん。しかし、そのまま固まる。




「ああ! わたくし、武器がないから攻撃できませんわ!」




 そうなのだ。融合は出来たけれど、攻撃しようにも武器の具現化はまだ出来なくて、攻撃出来るミルフィーユはルーシャちゃんと融合しているわけだから……。




「え、えい! この!」




 仕方なくルーシャちゃんは杖で殴り始めた。けれど、影は簡単にすり抜けてしまう。




「ルーシャちゃん! 一度、前に回って影の動きを止めて!」


「わ、分かりましたわ!」




 ルーシャちゃんはわたしが言った通り、前に回って影をとうせんぼした。




「今だ!」




 わたしは弓を放つ。一発必中。白い矢は影の頭に突き刺さった。




「ぎゃああああ!」




 影は(もだ)えて、その場にとどまる。




「よし! 吸収してくる!」




 シルフも風のスピードで影に近づき、三体目の影を吸収することに成功した。



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