第六十一話 みんなを守る炎
落ちてみるとノームの巨像の鎧の中は、真っ暗だった。きっと、サラマンダーが開けてくれた穴もすぐに閉じられたんだ。
「うわっ!」
飛び込んで何メートルか落ちると、ボスンと何かの上で身体がバウンドする。
「ユメノ大丈夫?」
「辺りを照らせられるか?」
エルメラとカカも付いて来てくれていた。なんとか身を起して、腰につけている精霊石に話しかける。
「ホムラ。灯りをちょうだい」
すぐに火の蛇が出てきてくれてポウッと身体を黄色い光で包んで、辺りを照らしてくれた。だけど、見えた途端に身体をこわばらせる。
「うわっ!」「きゃあ!」「うを!」
照らし出された、それに思わず叫び声を上げる。わたしたちがいたのは当然、黄金に光る妖精の樹の上だ。だけど、樹には黒い大きな花が生えている。
それだけじゃなかった。取り囲むように黒い花が顔をそろえて、一斉にわたしたちの方を向いていたのだ。花なのに口がついていた。流ちょうに動いて話し始める。
『あらあら、小さなお客さんよ。みんな』
『まあ! さっき戦っていたお嬢さんじゃないの』
『こんな所にどうしたのかしら、迷子?』
そんなことを口々に話し始めた。綺麗な貴婦人のような声に聞こえるが、はっきり言って不気味だ。わたしはグッと拳を握る。
「迷子な訳ない。妖精の樹から力を奪い取っている、あなた達を燃やしに来たの!」
『まぁ怖い。でもね。わたしたちは何も悪くないの』
『そうよ。そうよ。わたしたちはノームに言われて、仕方なく妖精の樹から力を土に流していたの』
本当なのだろうか。この花たちは何も悪くないのだろうか。何だか、話を聞いている内に分からなくなってくる。
『それにあなたとっても可愛いわ』
『それにとっても力がある。ねえ、一緒に町で楽しく過ごしましょう』
『そうしましょう。そうしましょう。町を作り直すのだって、ノームがいればあっという間よ』
『それにあなたがいればきっと夢の町になるわ。どんな町がいいかしら』
『物語であふれた町にしましょう』
「夢の町……」
頭がぼうっとしてくる。確かにノーマレッジは夢の町のようだった。あれほど美しい町をわたしは見たことがない。暮らしも豊かで、これ以上の町はここ以外には……。
『さぁ、ノームに力を託すの。そうすればきっとあなたの夢が……』
――夢が叶う。
パチンッ!
心の中でつぶやいたとき、頬に小さな痛みがする。
「ユメノの夢は声優! ノームじゃ、絶対に叶えられない夢なんだから!」
エルメラの声にハッとする。ずっとぺちぺちと頬を叩かれていた。カカも耳元で大きな声を上げる。
「ユメノ! しっかりするんだ! あの花の言うことに惑わされてはいけない!」
「カカ、エルメラ」
妖精たちの小さな顔を見つめる。そうだ。夢を叶えるためだけじゃない。二人の為にも、妖精の樹を解放させなくてはいけない。
わたしは胸の前で腕を組む。
「わたしの夢は、この世界では叶わない! でもここでみんなを守らないと、夢を叶えたいなんて言えない。ホムラ。みんなを守る炎を!」
「きゅるるるる!」
ホムラを青い炎が包む。炎に照らされた黒い花たちが身をよじり始める。
『そんな。ダメよ』
『燃やさないで、お願い』
『い、いやああああああ』
青い炎は広がっていき、黒い花だけを包み込んでいく。黒い花は青い炎と共に、ボロボロと崩れ去って消え去った。後は黄金に光る枝葉だけが残る。
「やった!」
「すごいよ、ユメノ!」
「これでイオも……!」
そのとき、地面が揺れ始める。カカとエルメラも辺りを見回した。
「な、なんだ?」
揺れるというか、下へ落ちていっているような気がする。
「ユメノ! 樹にしがみつくんだ!」
「う、うん!」
必死に妖精の樹の枝にしがみついた。
◇◇◇
イオは短剣を自らに突き付けたまま、ノームと対峙していた。花の精霊の女王がふんと鼻を鳴らす。
「そのようなことをしても、わたしが傷つける前に……」
「何かしようとする動きを少しでも見せたら、すぐに斬る」
首筋からはまた一滴の血のしずくが流れた。イオは本気だ。
「お前たち、何もするではないぞ」
ノームの言葉に二人の王は引き下がる。
「名はイオと言ったな。わたしの物になることは誉れ高きこと。そうは思わぬか」
「思わない」
「なぜ」
「ノームのことを美しいと思ったことなど一度もない。姿も、声も、生き方も。お前は全てが醜い」
ノームの表情が固まった。頭を抱えて、揺さぶり始める。
「醜い……、このわたしが? この姿だからか」
「違う。どの姿だろうと、お前がしてきたことがお前を作っている。だからだ」
黒いオーラが花の形になってノームにまとわりつく。耳元でささやきだした。
『耳を貸してはなりません。ノーム様、あなたは美しい。その大いなる力を使い、ここまで美しくなったのです。この者の言うことに惑わされては……』
黒い花はピタリと言葉を止める。
「なんだ。どうした」
ノームは振り返るが、黒い花は身をくねらせて悶えている。様子がおかしい。
『い、いや、熱い。何をぼーっとしている、ノーム! 早く消火を……ああ、ああああああ!』
黒い花は燃えて消し炭のように消えた。花だった黒いものを握りしめて、ノームはしゃがみ込む。
「お、おい! そなたがいないとわたしは、わたしは……」
「「ノーム王……」」
全ての力を失ったかのように、花の精霊の女王と宝石の精霊の王は姿を消す。ガラガラと部屋の、いやノームの巨像の崩壊が始まった。




