8 ハイブリッドの試練
《これまでのあらすじ》
半妖の少年ギャランは、力の暴走をきっかけに、灯霞の街で“最強魔女”アイラの弟子となった。
生活リズムの立て直しから始まった修行は、畑仕事に薬作り、そして魔力と妖力の制御訓練へと進む。
町は百年に一度咲く妖花“オーベラ”の開花を前に賑わい、ギャランは魔力制御に苦戦しつつも成長の兆しを見せ始める。
そんなある日、彼の前に兄レオニダスが現れ、さらに厳しい訓練と日常が加速していく
「どんなに高い魔力があっても、それを出し入れできなければ意味がないわ。体に溜めすぎれば、いずれ暴発するだけよ」
淡々とそう告げたアイラの言葉に、ギャランの背筋がぴしりと伸びる。
「妖力も同じ。いくら持ってても、狙って打てなきゃ……その石みたいに、全部吹き飛ばすだけ」
粉々になった妖力石を見下ろして、アイラが肩をすくめた。
「そんな魔力と妖力の“ハイブリッド”――それが、ギャラン君」
その瞬間、ふたりの反応が見事にかぶった。
「すげえええっ!!」
「そんなの、いらないってばぁ〜〜!!」
叫んだのは、レオニダスとギャラン。それぞれ真逆の方向に全力で頭を抱える。
「……兄弟なのに、見事なまでに正反対ね」
呆れたように笑いながら、アイラはギャランの前にしゃがみ込んだ。
ギャランは石の破片を拾いながら、ため息をひとつ。
――妖力は、意識しなくても勝手に出る。
――魔力は、意識しないと出せない。
「どっちも使えるって、逆に難しいんだな……」
「そう。だからこそ、石に力を溜めるこの訓練が重要なのよ。地味だけど、力の流れを感じられるようになれば、一気に伸びるから」
「……石を壊す速さなら、成長してる気がするけど」
ギャランのつぶやきに、レオニダスが「それな!」と親指を立てた。
「そこよね。レオニダス君、妖力に強弱つける訓練とか……できる?」
「は? いや、そんなのやったことないし」
即答。
「ほんと、あんたたち……兄弟なんだな……」
アイラはこめかみを押さえた。
ギャランの課題は、“妖力を意識する”こと。
それができれば、攻撃も防御もグッと安定する。
だけど問題は――
「どうやって、それを感じさせるかよね」
アイラは腕を組み、唸るように空を見上げた。
「ダンジョンで実戦形式もいいけどギャラン君の妖力、正直ダンジョンごと壊しそうなのよね」
「うわ、俺たちそこまで危険生物認定……?」
レオニダスが苦笑しながらお茶をすする。
「……笑いごとじゃないからね。ほんとに」
けれど、ギャランが持つ“危うさ”は同時に、レオニダスさえも羨むほどの“可能性”でもある。
(レオニダスに頼んだって、加減知らないしなあ)
そこで、アイラの頭にふとひらめいた。
――そうだ。ちょうどいい人がいるじゃない。
「彦、ちょっと連絡をお願いできる?」
アイラが空中に指を走らせると、淡い光のペンが出現。宙に描かれた魔法文字は金色に輝き、くるくると球体になって、彦の手の中へと収まった。
「お届けしてきます」
彦が微笑むと、次の瞬間、その姿は夜空に一筋の流れ星となって消えていった。
ギャランとレオニダスが目を丸くする。
「彦も織も、もともとは“星”なのよね」
アイラがさらりと口にすると、ふたりは再び固まる。
「ま、細かいことは気にしないで。とにかく良い訓練相手を紹介するわよ。この際だから、レオニダス、あんたも訓練しなさい。結界破らなくても済むようにね」
そう言って、アイラはニヤリと笑った。
(あの人なら、ギャラン君の“核”に触れてくれるかもしれない)
次なる修行の幕が、今――静かに上がろうとしていた。