番外編:黄金の羊毛で布団をつくろうとしたら、彼女が可愛すぎて眠れない
レオニダスは今日も真剣に考えていた。
新婚さんいらっしゃーい!の定番フレーズ。
「おかえりなさい。
ご飯にする?
それともお風呂?
それとも……わ・た・し♡」
台所は焚き火で何とかなる。
ベッドは……まあ、作れない。
風呂は.....前回失敗した
だから今、必要なのは――布団だ。ふ、と、ん。
へへっ、気づいたんだ。
最上階、かつて常世神の神殿があった場所は、一年中春の気候。
あれは前の常世神の、穏やかな心の証。
でも俺はどうだ?
まるで冬の嵐の中にいるみたいに悶々としている
俺は、新・常世神。
もっと寒くて、もっと暖かくしてもいいはずだ!
だから決めた。
「アイラ、こっちにおいで。一緒に温まろう」
震える彼女をそっと抱き寄せる。
ふたりの鼓動がぴったり合うのを感じながら。
――それは甘くて、切なくて、溶けそうな瞬間。
※※※
「レオ、あんた……今、ろくでもないこと考えてるでしょ?」
「え?なんでバレた?」
「鼻血出てるよ」
……てれっ
「死活問題だ!寒いんだよ、だから……布団を作る!!寒さに震える君を、絶対に守りたいんだ」
「……バカ。そういうの、聞きたかった」
アイラの瞳がうるんで、頬がほんのりピンクに染まる。
「20階に、黄金の羊毛を持った羊がいるよ」
「黄金の羊毛?まさに理想だ!」
ふわふわと輝く羊毛に包まれたアイラの笑顔がほんのりピンクに頬を染める姿を想像する
「絶対に、君に最高の布団を作る」
⸻
20階。
緑の草原がどこまでも広がる。
足元を締め付けるツタ、毒のある蝶、凶暴なカマキリたち。
そんな危険地帯の中でも、一際目立つ黄金の羊毛の群れ、アルギオスラム。
「今夜はジンギスカンね」
アイラがにっこり笑う。
「ああ、一緒にあったまろう」
狩る相手は同じでも、目的は違う。
気づかないまま。
突然、羊たちが振り返る。
目は六つ、ツノは四本。
「おお、これは手強いぞ!」
アイラが呪文を唱え、闇を呼び寄せる。
「闇よ、我らを包め!」
闇に包まれた世界で、黄金の羊毛だけが幽かに光る。
「今だ!あの光を狩る!」
一瞬で羊は輪切りにされ、黄金の毛だけが残った。
焚き火の炎でラム肉がじゅうじゅうと焼ける。
最上階のレモンの木から採った果実をかけて。
「最高だ」
アイラがほほ笑む。
「これを食べたら、最高の布団を作るよ」
潤んだ瞳、赤く染まった頬。
胸が締めつけられるように熱くなる。
ん?赤い??まだ寒くないはずなのに……
「アイラ!」
額を合わせると、彼女は震えていた。
「寒い、寒いよ……」
病院はない。
「薬は?」
「作ってなかった……」
俺は黄金の羊毛で彼女を包み込み、温かく抱きしめた。
二人の心臓の音が重なり合う。
夜が明け、アイラの震えは止まった。
けれど頬はまだ赤い
「死なないってだけで、こんなに苦しませたくない」
そっと彼女の目尻に唇を落とす。
アイラがゆっくり目を開けて、囁く。
「起こしちゃった?」
「ううん、眠りが浅かっただけ」
微笑んで、俺にすり寄る。
「ひとりじゃないって、やっぱりいいね」
「ずっと一緒にいるから」
俺は彼女の指を絡め、寄り添い、そっと抱きしめた。
「愛してる、アイラ」
「私も、レオ」
二人だけの温もりが、静かに夜明けを迎えた。




