番外編: 神の住処は湯けむり未満でした
レオニダスは、真面目に考えていた。
――新婚さーん、いらっしゃーーーい!のテンプレは、
「あなた、おかえりなさい」
「ご飯にします?」
「それともお風呂にします?」
「それとも、わ・た・し!!」
……のアレだ。
台所は、直火――つまりは焚き火でいいとして。
「わたしがいいです!」といくには、ベッドはハードルが高すぎる!
よし、風呂だ。
いやーん。あはは。もうっ!
湯上がり最高! ほのかなピンクなうなじ!!
ダンジョンの滝に打たれてるだけじゃダメなんだ。
水中サソリと戦いながらの天然シャワーなんて違う!
背後からそっと、バッグハグ!
風呂のお湯がチャポン!!
――これだ!!!
「レオ、あんたろくでもないこと考えてるでしょ」
「へっ?」
「鼻血。だらだら」
レオニダスは、てれっと鼻血を垂らしながら妄想していたらしい。
「ろくなことなんてあるか! これは死活問題だ!」
「??」
「風呂がいる!風呂を作ろう!!」
……風呂な!
考えなくても、何を考えてるかわかる!
ろくでもない!!
⸻
「とりあえず、縦と横を同じ長さで切ればいいんだよ。で、ひっつける」
先日とってきた魔法樹を加工して、板にする。
同じ長さに切って――
……ちょっとズレたか?
そして、くっつける!
――魔法樹、硬すぎてクギが刺さらない!
とりあえず、ミミックの粘液をベタベタにして接着剤代わりに。
どうだ!
「レオ、ごめん……わたしの目から見ると、とりあえず長方形じゃないよね。しかも隙間すごい空いてるし……」
「アイラぁぁーっ!魔法でちょいっと風呂作れないの!?」
「作れるけど、魔法っていうより“錬金術”に近いの。
しかも時間かかるし、素材もここじゃ揃わないと思う……。
わたしが素材取りに行っても大丈夫?」
アイラが、少し不安そうに聞いてくる。
「ダメ! 絶対ダメ!!」
なんかの間違いで帰って来れなかったら……
怪我したり、なにかあったら……
自分はもう、この賢者の塔から離れられない。
守れない。
そんなことになったら、たぶん――発狂する。
……離れ離れになるのは、嫌だ。
「じゃあ、大きい木を輪切りにカットして、中に稲妻落として、中をくりぬけばどう?」
「たしかに! それなら細かい作業必要ないな!」
向かったのはダンジョン15階。
そこには――暴れん坊のお化け樹がいた。
「アイラ、とりあえずあいつの枝、全部落とすぞ!!」
「オッケー!」
アイラが小さく呪文を唱える。
風がうねり、ウィンドカッターが百の刃と化して、枝という枝をバッサバッサと伐採!
丸裸になったお化け樹を、レオニダスが剣で一刀両断!
続けて――雷撃!!
「どうだ!!」
……ズズンッ!!
「うん……どうも地中まで貫通したみたい」
風呂の道のりは遠いな。
うふふ、あはは、いやんは遠いな。
「レオ、これ……穴だらけだけどさ。
足ぐらいならつけられるんじゃないかな? 35階にサラマンダーの巣があって、少し温泉が湧いてたから、お湯もらって足つけてみようよ」
足か……。
足なら、たぶん「蹴るな!」「お湯かけるぞ!」のパターンだな。
でも、ここまでやったんだ。まあ、いいか。
⸻
35階。
そこは、サラマンダーの巣。
火を吹くし、床はメラメラ燃えてる。
……が。
「いくよ」
アイラが静かに呟いた瞬間、冷気が走る。
ブリザード。
瞬間、サラマンダーは氷漬け。
相変わらず、神の領域を軽く超えてくる。
巣の奥。
ゴポゴポと音を立てていた湯が、
いい感じの温度になっていた。
だが、そこはサラマンダーの湯
急いで回収しなければすぐゴポゴポになる
レオニダスが最初に作った“穴だらけの風呂”をアイテムボックスから取り出し、ちょうどいい量だけお湯が注がれて――
足湯、完成。
ぽちゃん。
2人、並んで座る。足を湯に浸す。
「……あったかいね」
「うん。相変わらず……アイラ、すごいな」
「惚れ直した?」
「直すっていうか……ずっと惚れてるし」
「……バカ」
アイラの頬が真っ赤になる。
そして、うなじまでほんのり、ふんわりピンクに染まった。
――レオニダス、固まる。
「やっぱり、温泉ってあったかいね」
汗ばんだアイラが、にっこり笑ってくる。
その顔を見た瞬間――
ボンッッ!!
限界突破。
……これ以上は刺激が強すぎます。
オレ、やっぱりヘタレです。
「レオ、大好き。ずっとこうやって一緒にいようね」
2人の影は、静かに湯けむりに溶けていった。




