56 闇を封じて光が集う場所へ
あの日、あれほど崩れ落ちた世界から帰ってきたというのに、灯霞の家は、何も変わっていなかった。
遠くに見える赤提灯、今は人間時間だ
もう少ししたら青提灯の妖時間となる
静かで、懐かしい空気。
ギャランが扉を開けると、アイラはさっそく人形型の依代を取り出していた。
これが、最後の授業かな
「私ができない時は、ギャランがやはないとダメだからね」
「え?」
ギャランが眉をひそめた瞬間、魔法陣が床一面に広がる。
依代の中心に、ふわっと光が集まり——
「アイラ様……!」
彦と織が、確かにそこに“生きて”いた。
ギャランの顔がぱあっと明るくなる。
「彦さん! 織さん……!」
「早々に退場しちゃって、ごめんなさいね」
「でも、終わったんですね。おめでとうございます」
ふたりは、まるでずっとそばにいたように笑い、駆け寄ってくる。
アイラが杖を回しながら、小声でぽつり。
「魂だけの存在って、七夕以外はお互いに姿が見えないの。でも依代にするのはダメって閻魔大王に言われてなかったから……ギリセーフよね?」
にっこり笑うその姿に、ギャランはなぜかホッとしたような顔をした。
織がふと、きょろきょろと周囲を見回す。
「あれ……レオニダス様は……まさか……」
「ちがうちがう!!」
アイラとギャランが、声を揃えて即座に否定する。
そしてすぐに、あの戦いでレオニダスがどうなったかを話し始めた。
闇夜神。ゾンビ。常世神。そして神殺しの短剣。
戦いは全部が終わった。闇夜神は消滅して、レオニダスは無事だと。
でも——
「レオ兄は一度神殿に戻らないといけないんだね」
ギャランは寂しそうに呟く
「神様って、本来は形を持たない存在なのよ。
だから、“依代”って呼ばれる器が必要だったの。レオニダスは神殿で常世神と切り離しをするんですって」
「……闇夜神も?」
「そう。闇夜神はね、力や血に価値を見出す魔道士の肉体を依代にしてた。ただ、魔道士は絶命していたみたいだけど。その体でこの世でも妖界でも、欲望のままに動いていたのよ。」
アイラはふっと遠くを見る。
「私は……あの神に目をつけられた。
賢者の石を体に埋められて、永遠に力の源として使われようとされてたの」
ギャランが拳を握りしめる。
「レオ兄とオレもだね。力を持つ器を産むために、母さんたちは.....」
そう、私たちはみんな闇夜神の被害者だった
「そうね。でも、一方で常世神は、賢者の石や塔まで作ったけど、彼の思いを満たす人は私たち以外来ることもなく、依代が見つからなかった」
「師匠は?」
「私は最初塔に来た時、闇夜神と一緒だったでしょ。
味方かどうかもわからず、まさか石を入れて殺されるとも思わなかったみたい。彼も石を入れられてからは見守ることしかできなかったと悔やんでたから」
「……レオ兄は、守りたいって思ってただけだったんだな」
ギャランの一言に、織がぽつりと添える。
「だから、依代として選ばれたんですね。アイラ様を大切に思う気持ちが、本物だったから」
その瞬間、アイラの顔が一気に真っ赤になった。
「な、なによ、そういう話じゃ……!」
ーーー
無事3人戻ってきた。結界も、もう、人間に見つからない目隠し程度でもう大丈夫
アイラは家全体にキラキラとした結界糸を張った
「賢者の塔に、レオニダスの様子を見に行ってくるわ」
「わかりました。いってらっしゃい」
アイラは小さくさよならと呟き、賢者の塔へ飛んだ




