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50 忘れてしまってもこの短剣はそばにある

「よし、作ろう」


朝日が昇るころ、アイラは赤い金属を抱えてギャランを呼んだ。


「手伝って。これは一人じゃ無理」


「了解! あ、素材それ……え、マジで!? これ、加工するの!?」


ギャランが目を見開く。


「火力必要でしょ。頼れるのはあなただけ」


「面白くなってきた!」


すぐさま外に用意していた火霊石の炉へ移動。ギャランが妖力を注ぐと、青白い炎が一気に立ち上がった。


「あとで彦にも来てもらおう。彼の手も借りたい」


アイラが手袋をはめながら言うと、ギャランはすでにメモ帳を出していた。


「温度、妖力濃度、魔力融合……よし、全部記録する!」


「今回はこの金属に、幽安石を混ぜて、私自身の魔力を練り込む。相性、きっと悪くない」


真っ赤だった金属は、炉の熱に溶けて橙色に。飴のようにふわりと膨らむ。


アイラは魔力で浮かせ、それを打ち台へ。

カン、カン、と小気味よく打ち始める。


叩く、戻す、また叩く——その繰り返し。


「代わります」


彦が無言で手を伸ばし、ハンマーを受け取る。

彼が叩くたび、刃が少しずつ細く、整っていく。


「レオニダス様が持つなら、刃は細身、重心は後ろ。抜きやすく、収めやすく」


「……ありがとう。助かる」


彦は昔から、無口だけど鋭いアドバイスをくれる。

武器屋にもよく出入りしていて、アイラが鍛造に関わるときは、いつもそばにいた。


これが、彼と武器を作る最後になるかもしれない。


ふと、そう思って目を伏せる。


夜が更けるころ、短剣は完成した。


刃は細く、鋭く、そしてどこかやさしい光を帯びている。

赤かった金属は、深い琥珀色に変わっていた。


アイラは、そっとそれを手に取る。


「……私のことを覚えてなくても。せめて、これだけは、あなたを守って」


祝福の言葉を乗せた瞬間、刃がキュインと小さく共鳴した。


まるで、祈りが風になって、どこかへ旅立っていくようだ



部屋に戻ると、すぐに鞘づくりに取りかかった。


素材は、魔獣の皮。

丈夫でしなやか、刃を抜きやすいのに、しっかりと保持もしてくれる。


手元の短剣にぴったり合うように形を整え、

アクシデントで刃が飛び出さないよう、魔力糸で丁寧に縫っていく。


刃が暴走しないよう、鞘の内側に小さな魔法陣を仕込んだ。

見えないように縫い込むのは、思ったより時間がかかる。


仕上げは、名前の刺繍。


針先が少しだけ震えた。


「……レオニダス」


そっと、彼の名を糸に込めて縫い上げる。

誰にも気づかれなくていい。ただ、自分の祈りのために。



常世神からもらった鉱石が短剣になるまで


気づけば、何日も過ぎていた。


いつの間にか外の空気も変わっていて、神殿の光がやわらかく差し込んでいる。


机の上には、完成した短剣と鞘。

鋭さと静けさが同居した、ひとつの祈り。


アイラは静かに息を吐いて、それを手に取った。


「これで、いい」


もう言葉はいらなかった。



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