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《完結》魔女は秘密を抱えながら弟子と最強タッグを組む  作者: かんあずき


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49 常世の果実と最後の祈り

「……短剣、か。意外だったな」


グラスの中で梅の実が揺れる。

アイラは梅酒をひとくち含んで、ほんのりと甘い余韻に酔いながら呟いた。


命を懸ける戦いなのに、どうしてレオは短剣を選んだんだろう。

勝てる算段があるのか、それとも——


「まあ、レオらしいって言えばそうかもね」


神殿には、果樹園がある

最上階の空に近いその場所には、常世神の加護を受けた果実の木々が並ぶ。


「この前の梅酒、いい出来だったなあ」

ふらりと現れたギャランが、瓶を振って嬉しそうに笑った。


「最初に甘果かんかの実を収穫して、発酵させたのが決め手ですね」

彦が胸を張る。

「僕が育てた作物を、ギャランさんが魔法で発酵促進してくれて。糖を分解して一気にアルコール化」


「で、発酵した酒を、このポーション蒸留機でぐつぐつして……」

ギャランが金属の装置をぽんぽんと叩く。

「透明な高濃度の酒だけ取り出すって寸法です! 我ながら天才!」


「そのあと、私が梅と砂糖を漬け込んで」

織がにこにこと瓶を指差した。

「再び妖力で熟成を加速。通常半年のところを、一晩で完成!」


「神殿にも奉納しておいたから、問題なしだよね。神様が飲んだ酒だから、私たちが飲んでも合法です!」


「どんな理屈よ……」

しかも、合法って前に神の果実って禁忌じゃないのか??

まあ....すでに私たち禁忌な存在の塊だけどね

しかし、なんでもありだな



アイラは苦笑しつつも、グラスを再び傾けた。


「次はレモン酒作りましょうね」

織がレモンの若木を見上げる。


「この階、気候はずっと春みたいです。神様パワーでどうにか、レモンなるでしょうか?」

ギャランが軽く肩をすくめた。


そう、ここには理屈なんて通じない。

常世神がまもるこの場所は、常識さえもどこか緩やかだ。


常世神は、お酒をもらってきっと喜ぶだろう。

無邪気で残酷で、それでいて穏やか。

植物や生き物を愛し、ただ愛されたいと願っていた——。


「……わたしも、もうすぐあの神のものになるのよね」


そして、二度と、戻れない。

レオと再び会うことは、ない。


彼は記憶を消して、妖界で新しい日々を生きる。

きっと友を得て、恋をして、笑い合って、幸せに暮らすだろう。

——それでいい。いや、それがいい。


「ギャランも記憶を消して、彦と織をつけてもらう。私がいなくても、ちゃんとやっていける」


ギャランの命が尽きた時は、彦と織はわたしのところにまたもどってくればいい


アイラは手元の加工した金属を見つめる。

赤く輝く金属は、常世神だから作れるもの

血のように深い色は、まるで未練のようだ。


「……どうか、レオが幸せでありますように」


短剣にそっと祝福をかける。

金属がキュイン、と一瞬共鳴音を鳴らした。


何も覚えていなくても、これなら使ってくれるかもしれない。

ただの護身用でも、彼のそばにいられるなら——それだけで、いい。


「……未練、かな。でも、許してよ。これくらいは」


アイラは最後の一口をぐいっと飲み干した。

賢者の塔製・神認可・密造梅酒。

胸の奥が、少しだけあたたかくなった気がした。




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