4 魔女の家の朝ごはんは修行です
ギャランの修行は、朝のジャガイモ剥きから始まる。
「織さん、終わりました!」
「彦さん、水やり完了です!」
──魔女の弟子って、もっと魔法バトル的なアレじゃなかったっけ?
と天を仰ぎつつ、今日も台所と畑を往復。
兄・レオニダスは「男女が同居なんて!」と反対してたけど、色気ゼロの下っ端生活。
昼夜逆転も直されて、まずは“生活リズム”から修行中だ。
それでも、水をまくと、土が喜ぶように魔力が流れていく感覚がある。
「ギャランさんのおかげで助かってます~」
にこにこ顔の織が、ほかほかの包子を運んでくる。
彦が育てた魔力入り野菜が詰まった朝ごはん。これ、地味に修行っぽい。
「……これ毎朝食べてたら、強くなれる気がする」
なんとなく、体の中の“魔力の流れ”も整ってきた気がする。
「師匠、そろそろ起きるかな……昨日、妖界に行ってたらしいし……」
ギャランがぽつりと言うと、彦がさらっと答える。
「大丈夫。久々に暴れて、スッキリしてたみたいですよ」
……暴れて?
その“暴れた”の真相は、のちにギャランも知ることになる。
妖界ではすでに通達が出ていた。
「ギャランは、魔女アイラの正式な弟子とする」
発信者は、妖の頂点に立つ一人、雷獣レオニダスの母で、ギャランの養母である黎凰
その一文で、妖界がざわついた。
人間のくせに、魔力は最強。
不老不死で、妖すら震え上がる伝説の魔女――アイラ。
その“弟子”に手を出すという無謀をやらかした妖たちがいたらしいが……
「殺気だけで立てなくなったって」
「魂が震えた、とか……もう妖の次元じゃないよね」
具体的な報告は、一切なし。
あるのは、“沈黙”と“震え声の噂”だけ。
「ギャランさん、朝食を食べてください。今日も販売に行くので」
「は、はい!」
ふかふかの包子、魔力入りサラダ、体に染みるスープ。
ギャランは静かに椅子に座り、息を吐く。
これが魔女の家の日常――
でも、静かなのは……きっと、今のうちだけ。
アイラが、そろそろ目覚める。
その手に、次の“修行”を携えて――。