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48 最後の武器はあなたのために

「レオ、ちょっといい?」


レオニダスの部屋に行くなんて、滅多にない。

普段なら、みんなでリビングに集まって、顔を合わせればそれで話はできていたから。

わざわざ部屋を訪ねるなんて、本当に久しぶり。

……そういえば、話すのもあの時以来か。


常世神のことは、できるなら思い出したくなかった。

でも、冷静になって振り返れば――あの後の出来事も、私の中でもう「事件」と呼べるレベルになっていた。


何もなかったフリをするべきか。

意識してるフリをするべきか。


どっちが正解なんだろう。


「……どうぞ」


少し間があって、低く返事がある。

私は「お邪魔します」と声をかけながら、そっとドアを開けた。


レオニダスの部屋は、予想以上に物が少なかった。


ベッドと、武器。

あとはそれらを手入れするための道具だけ。


ギャランの部屋が勉強道具でいつも散らかっているのに対して、こっちは見事に無駄がない。

レオは昔から「覚えればいいから」と言って、ほとんど勉強らしい勉強もしないタイプだった。


服も、クリーン魔法で綺麗にしているから、何枚も必要ないらしい。二、三着あれば十分とか。


「……こんなにスッキリした部屋だったっけ?」


私が首を傾げると、レオは淡々と答えた。


「いるものしかないだけ」


その言葉に、どこかレオらしさが滲む。


空気が澄んでいるような、妙に落ち着くような。

……いや、違う。

たぶん、あの日以来、私とレオの関係が少し変わったから、そう感じるだけかもしれない。


「入られるの嫌?」


「……嫌じゃない。別に」


沈黙が、痛い。


「あの……この間、常世神からもらった鉱石、覚えてる? 私の血を吸い上げたやつ」


「覚えてるよ」


レオが静かに頷く。


「さっき、やっと金属に加工できたの。それで……最後にレオに、武器を作ろうと思ってる」


その瞬間、レオが顔を上げる。

一瞬、怖いくらい真剣な表情だった。


「最後、ってこと?」


「えっ、違う! 違うから! 最後っていうのは、その……闇夜神のところに行く、最後の戦いのって意味で……!」


慌てて言い直す。


「……ふーん」


レオは、疑わしそうな目を向けてきた。


「で、武器は……剣? 槍? それとも大剣?」


「短剣」


「……え?」


思わず声が裏返る。


「短剣」


「……短剣って……レオ、至近距離じゃないと不利よ。その体格で?」


「確実に、息の根を止められる」


「いや、神だから。そもそも息の根、止まらないんだけど」


「それでも。どこにチャンスがあるかはわからない」


レオの声に、一切の迷いはなかった。

大きな身体には似合わない、静かな決意が宿っている。


(……短剣、か。考えたこともなかった)


アイラは頷いた。


レオが欲しいと思うものを持っていて欲しい


「色々、考えてて……その……過去のことを」


「オレとのこと?」


レオが、少し意地悪そうに笑う。


「……いや、それも、まあ……たくさん考えないとだけど」


私はごまかすように視線をそらした。


「わからないままのこともあってね。……どうして闇夜神は、私に賢者の石を埋め込んだんだろうって、ここ数日ずっと考えてた」


「……復活できなかったのは、予想外だったんだろ」


「うん。それは間違いない。……あの時も、私のこと刺しながら『ウザかった』って言ってたし。……長生きして欲しかったわけじゃないって、よくわかった」


レオは、そっと私の頭に手を伸ばした。


(……優しい)


「でも、それなのに、あんなに大変な思いして、賢者の石を作って、私に埋め込んだんだよ。理由があるはず。……常世神が言ってた。『闇夜神は、力と血を愛する』って」


「バーベラのときと同じかもな」


レオがぽつりと呟く。


「母さんも、オレも……段々、妖力がなくなっていってただろ。でも、あれおかしいんだよな」


「……?」


「まわりは、ただ体調崩してるだけのレベルだった。でも、オレたちだけ、明らかにおかしかった。あれは……ダイレクトに、妖力吸われてた」


私も、はっとする。


「……そうか。私のときも、不老不死にして魔力を延々と吸い続けることが目的だった。そして、今回もし私が負ければ……また、同じことが起きるってこと?」


レオの顔が歪む。


「ここにいちゃ、ダメなのか……? ……みんなで、ずっと逃げ回ればいいじゃん。この最上階で暮らせば……」


「……私も、そう思ってた。……ここでの生活が、ずっと続けばいいのにって。でも……」


私は小さく笑った。


「時間が止まらない限り、何も変わらないままなんて、無理なんだよ」


「……アイラ」


「レオ。全部が終わったら……」


「終わったら?」


「その時に話す」


私はそう言って、くるりと背を向ける。


「夕ご飯、お魚だって。美味しそうだったよ」


何でもなかったふうに、部屋を後にした。



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