42 師匠に刺された神殿でわたしは真実にふれる
《これまでのあらすじ》
半妖のギャランは、うっかりアイラの結界を壊してしまい、彼女の弟子として暮らし始める。兄のレオニダスや母・黎凰とは別に、アイラの家で修行の日々。
バーベラの花の異変により、町は混乱。そんな中、レオニダスは無事だが、黎凰の死が明らかに。アイラは調査を進め、かつて自分に不死の力を与えた「師匠」と闇夜神が同一人物であることを知る。
失われた過去と隠された真実が徐々に明らかになり、彼らの運命は大きく動き出す――。
台座の下に、まだ残っていた。
あのとき、私が流した――血。
なんで、こんなにくっきり残ってるんだろう。
見下ろすだけで、胸が締めつけられる。
あの瞬間のことを思い出そうとするけど……やっぱり、ダメだ。
刺されたあとの記憶は、まるで空っぽ。
(ここで……私は、一度、死んだんだ)
なのに、なぜか生きている。
不老不死の体で。
ここで、賢者の石を……私に埋め込もうとしたのか。
でも、なんで?
死なないはずの師匠が、どうして永遠の命なんか欲しがったのか。
なぜ、目覚めたとき、私は集団墓地の中に転がってたのか。
わからないことだらけ。
私はゆっくり杖を取り出した。
レオニダスがくれたこの杖。
まだ手にして日は浅いのに、体の一部みたいに馴染んでくれる。
私の気持ちも、意図も、全部読んでくれる。
(そういえば、ギャランも……)
弟子になったばかりのあの子に、杖を渡した日のことを思い出す。
あんなに喜んで、目を輝かせて。
私も、こんなふうに、あの時……。
(……違うか)
私のときは、どこにでもある安物だった。
当時は、それでも嬉しかったのに。
今ならわかる。
師匠は、私を“そういう扱い”しかしてなかったんだ。
賢者の塔のダンジョンで、まともに力も出せなくて、必死に師匠に酸素を送り続けながら、ボロボロになって。
師匠が私を守ったことなんて、あったっけ?
それでも、必要とされてるのが嬉しくて。
バカみたいに、ただついていって。
(……でも、もう違う)
私は、ギャランにも、レオニダスにも、そんな思いはさせない。
あの人と、同じにはならない。
杖を握り直す。
「わたしは……大丈夫」
小さく呟いて、足元に魔力を巡らせる。
血痕ごと、台座の周りを囲むように、大きな魔法陣を展開。
私が描きたいのは、あの日の記憶。
あの日の私。
「あの日の私の記憶よ……この場に戻れ。
あの日の私の姿よ……この場に映せ。
あの日の賢者の石よ……その後を、私に示せ!」
詠唱の最後で、声が震えた。
胸の奥が、ざわざわしてる。
(本当に、見ていいの?)
でも、もう進むしかない。
このままじゃ、ギャランも、レオも、私も……いつかまた壊れる。
大きく息を吸って、前を向く。
視界の端に、レオニダスとギャランが走ってくるのが見えた。
心配そうな顔で、何か叫んでる。
(大丈夫。大丈夫だから……)
ごめんね、二人とも。
いつも、私のことで振り回して。
でも、今回はちゃんと受け止める。
二人に気を使わせないぐらい、強くなる。
魔法陣が、光を放った。
足元から、一気に空間がゆがむ。
私は、一歩踏み出す。
次の瞬間、体がふっと浮いて――
私のいた場所から、光ごと、姿が消えた。




