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40 わたしの体の賢者の石、そしてはじまりの場所へ

師匠は――人間じゃなかった。


神だった。



その事実が、頭の中で何度もループする。


 

じゃあ、どうして――


どうしてあの人は、あんなにも賢者の石に執着していたんだろう。


どうして、あんなふうに、私を裏切ったんだろう。


そして――神なのに。


どうやって倒せるっていうの。


 


答えは、まだ出ない。


 


窓の外を見る。


いつもの景色。いつもの山。いつもの空気。


でも、もう何もかもが違って見える。


 


あのあと、ダンジョン探索は中断した。


上層まで登ってきていたけど、一度、家に戻ることにした。


みんな、心も体も限界だったし……私も。


 


「あ、レオの装備……まだ決めてなかったな」



ぐちゃぐちゃになった思考の隙間に、今考えなくて良いことが入り込む。


現実逃避なのかもしれない。


 レオとギャランが、私の顔色をうかがっているのもわかってる。


二人とも、ずっと気を遣ってくれてる。


 


「師匠……ごめん」


ギャランが、ぽつりと言った。


顔を伏せて、いつもの元気がない。


「俺……あいつの、子供だから……」


 


「……血は変えられないけどさ」


レオニダスが続ける。


「どんな親父かなんて、知らねぇよ。あんなやつ……関係ねぇ」


 


「……大丈夫」


私は、二人に向かって笑ってみせた。


「そんなこと、全然気にしてないから」


 


――本当だよ。


嘘じゃない。


でも……少しだけ、嘘。


 


レオの目元の雰囲気。


ギャランの声の響き。


ふとした仕草。



……あの人に、似てる。


 

思い出したくないのに。


忘れたいのに。


勝手に、脳裏に浮かんでくる。


 


それがわかってるから、二人は私に気を遣ってるんだ。


……そんな顔、させたくないのに。


二人は何も悪くない。


それどころか――被害者なのに。


 


(……ごめんね)


 


深く、息を吸って。


また、外を見る。


 


……気になってることがある。


黎凰と、ギャランのお母さん。


師匠と一緒にいるだよね


 


黎凰の死体を、わざわざ運んだってこと?


いや、そもそも。


ギャランの母親はただの人間だったはず。


とっくに亡くなっている


 賢者の石でもないと、生き返らない


でも……賢者の石は、私の体に埋まってる。


一つしかない、はず。


 

ってことは――


 

(……死体のまま?)




あの人が、ただ素直に弔うわけがない。


ロクなことになってないのは、わかりきってる。


 


(考えろ、私……)


 


過去の記憶を、総動員する。


師匠と旅した日々。


あの人の性格。


癖。


弱点。


レオとギャランの共通点。


そして……あの神殿での出来事。


 


必ず、どこかに糸口があるはず。


そうじゃなきゃ、勝てない。


 


私は立ち上がって、家の玄関……じゃない。


その隣にある、あの石の建物を見つめた。


 


ずっと無視してきた。


怖くて、近づきもしなかった。


でも――


 


「今なら……行ける」


 


小さく呟く。


 


あそこが、私の原点。


あそこが、すべての始まり。


 


「行かないと」


 


杖を握る手に、力がこもった。


 


――私の過去に、決着をつけるために。


 


次の瞬間、アイラは一歩、神殿への道を踏み出した。







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