38 探知の先に待つもの
《これまでのあらすじ》
不死の呪いを背負い、過去に囚われ続けてきたアイラ。
レオニダスはそんな彼女を守るため、ダンジョンの神殿で命懸けの試練に挑む。
瀕死の中で想いを告げ、アイラのために新しい「聖属性の杖」を手に入れた。
二人の距離は少しずつ縮まるが、仲間たちには「ヘタレ」「告白だけでキスなし」と総ツッコミ。
それでも、アイラが心から笑えるようになった姿を見て、レオニダスは改めて決意する。
――次は、もっとちゃんと守れるように。もっと強くなるために。
パーティは、それぞれの属性と役割を見直しながら、次なる試練に向けて動き出す――。
最上階層に入って、すぐだった。
ギャランが、突然ふらついた。
「……あ、やば」
膝をつくギャランに、みんなが駆け寄る。
「高山病だね」
アイラはすぐに状況を把握した。
ここは山の上層、空気が薄い。ダンジョン関係なく、人間なら誰でもなる症状だ。
アイラ自身は、この体になってからは平気になったが――
(……そういえば、昔は何度も倒れてたっけ)
師匠とこの山に来たとき、酸素を送りすぎて自分が何度も倒れた記憶がよみがえる。
「彦と織は酸素いらないし……レオは妖だから、まあギリギリ大丈夫として……」
アイラはレオと自分にも薄く酸素展開を施し、ギャランには何重にも防護をかけた。
いきなり酸素を送りすぎると危ない。数日はテント待機。
どうせ、その間にもやることは山ほどある。
アイラはふと、遠くを見つめた。
(楽しい旅なら、よかったんだけど……)
これは命を守るための旅だ。
気が抜ける瞬間なんて、ひとつもない。
レオと黎凰を襲った、あの“気配を消した目”のことを思い出す。
(どうして、あの二人は気配を感じなかった?)
家に押し入った形跡もない。
もしかして……最初から、家の中にいたのか?
黎凰は、アイラほどではないが、それなりの結界と防御を施した家に住んでいたはず。
(……やっぱり)
ふと、ある人物の顔が頭をよぎる。
闇夜神――
レオとギャランの父。
謎が多い男。
ギャランの母を真剣に愛してしまったから黎凰と別居した、という話が通説だけど――実際、ギャランを育てたのは黎凰だった。
ギャランの母。
人間で、魔力が高い。
生きていれば魔女だったのかもしれない。
けれど、愛されて育った環境ではなかったはずだ。
魔力を持つ人間は、そういう扱いを受ける。
(……調べてみよう)
アイラは、こっそりレオニダスとギャランから髪の毛をもらった。
魔法陣の上で、二人の血統を分解、精製し、父由来と母由来に分けていく。
闇夜神の魔力、黎凰の魔力、そしてギャラン母由来の力。
三つにきれいに分かれた。
空中にダウジングチャームをいくつか浮かべ、ひとつひとつの魔力を吸わせる。
「……あ、別に黎凰のはよかったのに」
アイラは苦笑する。
黄泉界でのんびり過ごしているであろうあの人の姿が、頭に浮かんで、少し顔が赤くなる。
(……義理の娘になりました、か……)
わあああと頭を振る。
(何考えてんの私!レオはこんな状況で吊り橋効果で好きって言ってるだけに決まってる!)
自分よりずっと若いレオニダス。
全部終わったら「ごめん」って言われる未来が簡単に想像できる。
(……だから、笑って、友達に戻れる準備しないと……なのに……)
なまじ、人生で好かれたことがないから――
今、離したくないって気持ちがどうしても消えない。
「……好き、だから……離したく、なくなる……」
思わず呟いて、またぶんぶん頭を振る。
そのとき――
「師匠、大丈夫ですか? どこか悪いんですか? 手伝えることがあれば……」
ギャランがふらふらと近寄ってきた。
「ち、ちがう、なんでもない! ギャランは寝てて!」
「ん? アイラ、体調悪いのか?」
レオニダスまで心配そうに寄ってくる。
……いや、あんたが元凶です。
「ほんとに、なんでもないってば。ただ、ちょっと操作ミスっただけだから」
「なにしてんの?」
「うーん……二人には言いにくいんだけどさ……」
アイラはごにょごにょと言いよどみ、ついに白状する。
「……あなたたちの父上と、ギャランのお母様が眠ってる場所を探そうと思って……生前どこの出身だったかっていうのも含めて」
ギャランがまばたきする。
「母さん……人間で魔力が強いってことは、魔女だったんですか?」
「わからない。魔力を持ったまま生涯終える人も、けっこう多いから。……まあ、あまり期待はしないで」
(慰み用か、戦闘用。それが普通のはず。でも……)
言いかけて、飲み込む。
「それで、操作ミスって黎凰の分も吸っちゃって……二人には言う機会なかったけど、黎凰、ちゃんと冥界にいるって」
レオニダスは静かに頷いた。
「……うん。ちゃんと死んだの、見てるから。納得してる」
アイラは大きな世界地図を机に広げた。
三つのダウジングチャームは、空中をくるくる回りながら、キラキラと光を放つ。
それぞれの魔力に反応して、地図の上を漂い、やがて――
一ヶ所を、同時に、ピタリと指し示した。
アイラは、息を呑む。
(まさか……)
地図のその場所に、震える指先を伸ばす。
「……そんな……」
次の瞬間、魔力計が震え、部屋の空気がピリついた。
レオとギャランが、同時に顔を上げる。
「……師匠?」
「……どうした、アイラ?」
アイラはゆっくり振り返り、唇を震わせながら答えた。
「……三人とも、同じ場所に……いる」




