34 天からの試練
《これまでのあらすじ》
ダンジョン攻略に挑むアイラたち一行。小型魔物との連戦、ヒュドラ、ミミック、空からのサンダーバード……次々と強敵が襲いかかる中、仲間たちは戦いながら絆を深めていく。
レオニダスの本音暴走、ギャランの成長、彦と織の頼もしさ。そして、過去を語り始めたアイラ。不死の身体、裏切りの師匠、賢者の石――彼女の重い過去に、仲間たちはただ静かに寄り添った。
それでも旅は止まらない。次なる舞台、中階層へと、物語は進んでいく。
アイラの過去を知ったからって、腫れ物みたいに扱うつもりはない。
でも、無理に思い出させるのも違う。
だからレオニダスは、過去と繋がる杖から早く新しい杖の素材を見つけたかった。
「……でさ。杖の素材、なんか希望ないのか」
今日も中層の山道を登る。
ダンジョンの中とは思えない陽気で、空には雲ひとつなかった。――さっきまでは。
「うーん……最低限の杖で今までやってきたから。特化って経験ないし」
アイラが肩越しに答える。
「全属性対応ってこと?」
「闇以外ならね。聖属性は、賢者の石が入ってから得意になった。治癒も、黎凰の腕も、そのおかげ」
「つまり……魔女ってより、聖女じゃん」
レオがぽつりと言って、アイラがムッとする。
「やめて。私、魔女だから」
「レオ兄からしたら、女神でしょ?」
「恋は盲目ですな」
彦と織が茶化すように言い合って、少し笑いが起きた。
――その時だった。
空が、急に暗くなった。
「……あれ?」
アイラが立ち止まる。
「おい、また天気か?」
ギャランが空を仰ぐと、次の瞬間、雷鳴が轟いた。
ばちり――。
空が裂けるように光が走り、冷たい雨が一気に降り始める。
「魔素濃度……急上昇……!」
ギャランが警戒する。
「みんな展開!」
アイラが杖を振り上げる。
瞬時に防御結界が展開され、織と彦もそれに続く。
レオも剣を抜こうと身構えた――そのとき。
雨雲の奥から、まばゆい光が差し込んだ。
次の瞬間、白い巨大な影が、翼を広げて彼らの上空を舞う。
「天翼獣……!」
アイラが低くつぶやく。
「前の探索ではこんなのでなかったのに」
黄金の尾羽、純白の翼、光の具現。
一瞬、全員が「戦闘体勢」に入ろうとした、そのとき。
――空気が変わった。
「……?」
天翼獣は、アイラではなく。
まっすぐに、レオニダスだけを見ていた。
(――オレ?)
レオが戸惑っていると、鳥がさらに低空に降りてくる。
その眼光は、まるで試すような、射抜くような。
「……これ……呼ばれてるの、レオ兄じゃない?」
ギャランがぽつりとつぶやく。
「たぶん……試されてる」
アイラがゆっくりと前に出る。
「......レオとわたし?」
空から降る光が、レオとアイラ、ふたりだけを包んでいく。
「わからないけど、悪意は感じない。多分、オレが行く理由がある気がする。行こう」
レオニダスは、アイラの手をとって天翼獣についていく
アイラは、ぎゅっとその手を握り返した。
少し震えている
「大丈夫、ちゃんと守るから」
――そして、次の瞬間。
二人の姿は、光の中に消えた。




