30 師匠の最強装備、配布します
《これまでのあらすじ》
黎凰の死を受け、アイラは仲間全員の武器を作り直すと決意。
素材集めのためダンジョンに挑むが、ヒュドラ地獄、ミミック大発生、レオニダスは幻覚胞子でまさかの告白未遂。
散々死にかけたあと、全員で野営。
楽しい夕食、ひとつのベッド、でもアイラだけは眠れない。
夢に見たのは、あの夜の裏切り――
胸の中で、静かに「もう二度と失わない」と誓っていた。
「いよいよ今日から中階層ね」
アイラがぽつりと呟く。
ダンジョンって言っても、普通の迷宮みたいに「〇階」とか数字でわかるわけじゃない。山道をひたすら歩き、森を抜け、谷を越え、気づけばだいぶ来た感はある。
……何ヶ月経ったっけ。
ヒュドラ? もう朝飯前。
ギャランなんて、一瞬で10体ぐらいまとめて丸焼き。
彦さんと織さんは、ミノタウロスやバフォメットを見ても微笑んでこう言う。
「今夜はステーキですね」
次の瞬間、目にも止まらぬ早業で、理想的なステーキ肉にされてる。
織さんの糸なんて、うっかり当たったら木が倒れるレベル。
彦さんの腰縄にいたっては、絡めた瞬間、ゴーレムが粉々になる威力。
そしてレオニダス。
雷一閃、空からコカトリスやらロック鳥が団体ごと撃ち落とされていく。
で、アイラはというと――
ひたすら魔物解体担当。
プラス、みんなの武器や装備のメンテと改造に追われる毎日。
各自、自分のパートを淡々とこなし……そんな数ヶ月。
そして今日。
目の前には、霧に包まれた巨大な崖。そこに浮かぶ、空中の小道。空の中をくぐり抜けていくような、不気味で美しい景色。
(……これが、ダンジョン中階層)
感慨深く見上げたその時。
「……って、まだ中階層じゃなかったんですかああああ!?」
「うそでしょ!?」
「もっと深いんですか!?」
「いままで全部、下層前だったの!?」
四人の絶叫が、山にひびく
「……まあ、ダンジョンだしね」
アイラが苦笑して、肩をすくめる。
「でも、ここまででみんなの装備、ちゃんとハイグレードにしておいたから」
ぱんっと手を叩くと、魔道具ボックスがぽんと開く。
「ギャランは――これ」
アイラが取り出したのは、深い赤と金のコントラストが美しい剣。
「翠妖晶に、魔極樹の樹脂。それに……レオの髪の毛もちょっと拝借してね。雷を通す“雷纏樹脂”仕様。ロッドにも剣にもなるから、好みにあわせて」
ギャランは目を見開き、震える手で剣を受け取った。
持った瞬間、しっくりくる重み。
試しに軽く振ってみると、魔力の通りも最高だった。
「……わ、すご……オレ、これ、好きです!」
「織さんはこれ」
次に差し出されたのは、銀色にきらめく布束。
「幽織糸。魔力を流せば、大体のものはスパッといけるはず」
「これ……黄泉界素材……?」
織が驚く。
「うん、天帝から。ずっと前にもらっててさ。『娘のために使え』って言われてたから、ちょうどいいかなって」
「……父様……」
織が少し目を伏せる。
「あとこれ、防具ね。夜霞絹で作ったやつ」
「夜翔鳥の羽……!」
「攻撃を霧散させる効果つき。織さんの動きなら、きっと活かせるはず」
「……って、アイラ様。いつ寝てるんですか? こんなの、どうやって……」
「まあ、細かいことはいいじゃない」
アイラはいたずらっぽく笑って肩をすくめた。
魔道具ボックスの中には、まだたくさんの装備が眠っている。
――次は、誰の番か。
「じゃ、続きは……歩きながらね」
アイラはそう言って、霧の道へ一歩踏み出した。
四人は顔を見合わせ、慌ててその背を追いかける




