26 ヒュドラ地獄とミミック乱舞
《これまでのあらすじ》
七夕の日、黎凰の死が確定し、残された者たちはそれぞれの想いを胸に歩き出す。
ギャランは己の力不足を痛感し、アイラは「もう誰も失わない」と誓い、仲間全員の武器を作り直すことを決意する。
だがその裏では、かつてアイラを裏切り、賢者の石を埋め込んだ元師――闇夜神が動き始めていた。
ふたたび彼女の命と力を奪おうと、静かにその手を伸ばす。
一方、地上の賢者の塔では、レオニダス、ギャラン、彦、織――そしてアイラの五人が、新たな力を求めて塔のダンジョン階層に挑もうとしていた。
目指すは、武器を鍛え直すための最高素材。
待ち受けるは、百階層を超える過酷な魔物たち。
彼らの、新しい戦いが始まる――。
「ヒュドラ、首切っても次の首生えてきますけど!」
レオニダスが血相変えて叫んだ。
「誰が、どこが“小型魔物”なんでしょうか!?」
「火、噴いてるんですけど!?」
「今日だけで十体は倒してません!?」
ギャランと彦まで声を上げる。
織は冷静に後方で糸を操りながら、ひと言。
「……前回より、多いですね」
バキィン!と、また一体のヒュドラが地面から突き上がる。
「ガタガタ言わない!」
アイラの声が響いた。片手で杖をくるりと一振り。
ドォン!
空気が焼ける匂いとともに、出現したばかりのヒュドラが炭になって崩れ落ちた。
「織、糸で絡めて確保。ギャラン、解毒。彦、やられた」
淡々と指示を出しながら、すでに次の魔力を練りはじめている。
ギャランが彦に駆け寄り、青黒く変色しはじめた腕に解毒魔法を流し込む。
織は死体処理係よろしく、糸でヒュドラの残骸をさばき始める。
「……なんで、こんな……」
レオニダスはゼェゼェと息を切らし、地面に座り込んだ。
全身、血まみれ。
さっきまで、半分飲まれていた。
「蛇……無理だ……」
アイラは空中に片手を伸ばし、指先で空間をひっかく。
黒い穴が、ぽっかり開く。
「はい回復。」
中から小瓶のポーションを取り出し、レオニダスの頭からざばっとぶっかける。
「蛇ダメなの? 意外と女子に多いタイプなのに」
「女子!? どの世界線の話だそれ! 俺、さっき半分食われかけてたんですけど!」
「うん、食われちゃうタイプだよねー。気をつけて」
アイラはくすっと笑って、ポーション瓶を空中の穴にぽいっと戻した。
「……その穴ってなんですか……?」
ギャランが苦笑まじりに聞く。
「これ? 簡易マジックボックスみたいなもの。時空ポケット版。ほら、新鮮ホヤホヤで保存できるんだよ」
「……初耳なんですけど」
「まあ、作ったの最近だし」
アイラはヒュドラの残骸を見下ろして、肩をすくめた。
「でもヒュドラは食べられないからねー。全部毒。見た目は……まあ美味しそうだけど」
「……美味しそう?」
全員、そろって絶句。
そんな中、アイラだけが楽しそうに次の魔法の準備にかかっている。
「ヒュドラの後ろって、だいたい……」
言いかけた瞬間。
ビュン!
小さな何かが、地面から一斉に飛び出した。
「うわぁああああああ!?」
四方から、見た目は宝箱そっくりの小型モンスターが跳びかかってくる。
パカッと裂けた中から、牙、舌、触手。
「……ミミック……!」
ギャランが真っ青になる。
「ミミックはね、攻撃もするし、噛み付いて拘束するし、精神作用もあるし。見た目は小型だけど、かなり厄介なんだよ」
アイラは平然と片手で魔法を展開しながら、ぽんぽんと撃ち落としていく。
レオニダスが力で殴りかかるが――手応えゼロ。
「硬い! 硬すぎる!」
「こらこら、ミミックちゃんはね、物理効かないから。妖力と魔力でいかないと」
アイラは、まるで軽くタッチするように次々と倒していく。
そのたび、キラキラした鉱石がこぼれ落ちる。
「うわああ、大漁じゃん」
「おかしい! おかしいぞ、その感覚!」
レオニダスが叫ぶ横で、アイラはにんまりと笑っていた。
「いい素材、いっぱい持って帰ろうね」




