21 賢者の塔から、黄泉界デート。【織編】
「彦さん、七月七日、どうします?」
賢者の塔に来て初めて迎える七夕。
私たち――彦と織は、この世の人間じゃない。黄泉の国から来た、体を持たない存在。
きっかけはたった一度、会いたくて仕事を投げ出した日。それが罰になった。
一年に一度、七月七日だけ。肉体を持って、黄泉界で会うことが許される。それ以外は、ずっと魂のまま。
離れ離れになってからは魂状態なので機織りの仕事はやめた
私は新たな仕事で冥界の門で、死者の受付嬢をしていた。そこで、毎回必ず顔を出すのが、アイラだった
「今回は……焼死、ですね」
「24時間後には元通りだそうなので、門は通れません」
「あー……この前は溺死だったんだけど」
「はい、復活されましたね。今回も同様です」
「……もうほんと、なんなのこれ。責任者出して。責任者」
閻魔大王とのやりとりは、もはや恒例行事。大王も頭を抱えてる。そりゃそうだ。死んでも死にきれない体なんて、門のシステムが想定してない。
アイラ様の言い分はもっともだ。望んでこんな身体になったわけじゃない。
で、あまりに回数が多いから――
「もう、アイラ担当をつけろ!」ってことで、私たちが選ばれた。
最初は私だけだったのに、ある日、アイラ様がぽつり。
「ついでに彦の魂もくれない? どうせ一緒でしょ?」
織の父――天帝は当然「不可」って言ったけど、アイラ様、あの手この手で説得した。
「肉体で会えるのは七月七日だけだし、魂二つくらい、別にいいでしょ?」
結果、私たちは家に着いてから、アイラ様に依代の身体を作ってもらって、塔で一緒に暮らすことになった。
それがどれだけ、嬉しかったか。
アイラ様は、私たち夫婦にとって主人で、恩人で、そして――大切な家族みたいな存在になっていった。
だからこそ、今年の七夕が近づくにつれて、気持ちは揺れた。
「……アイラ様のもとから離れるの、心配だな」
「そうですね。あんまり……良い思い出の場所じゃないですし」
でも、アイラ様は言った。
「何言ってるの? 私がどこにいると思ってるのよ」
ふっと笑って、いつもの調子で。
賢者の塔は、どこよりも強力な結界で守られてる。塔そのものが意思を持ち、ここにいる人を“守る存在”と認識してくれている。
だから大丈夫。黄泉界からの帰還も、問題ないらしい。
しかも、ひとつ仕事を頼まれた。
「黎凰が……本当に死んだのか、確認してほしいの」
閻魔大王の台帳は、冗談みたいな分厚さだ。一日で全部なんて無理だろうけど、亡くなった日がわかってるなら、きっと見つかる。
「わかりました。行ってきます」
七月七日。
今年も、黄泉界で彦さんと会える。
……ただ、きっとデートは閻魔図書館になる。




