20 俺たちの逃亡生活は、いま賢者の塔で続いている【ギャラン編】
《これまでのあらすじ》
バーベラの花が咲き、町に異常が広がる中、レオニダスが瀕死で発見される。
アイラとギャランの命がけの治療で一命をとりとめるが、レオは「母が死んだ」と涙をこぼす。
敵の正体も目的もわからないまま、次の危機が迫る気配に、アイラは決断する。
――全員を連れて、賢者の塔へ逃げるしかない、と。
あれから、もう何年が経ったんだろう。
最初は必死で日付を数えてたけど、いつの間にか、それもやめた。
窓から見える景色は、いつだって変わらない。
ここから見下ろせば、遠く、かすかに……あの灯霞の提灯の光が見える。
小さくて、低くて、でも――あの日、あそこにいたみんなが、まだ生きてるんだって思える。それだけで、少しホッとする。
あの日は、本当に大変だった。
本当は、みんなだけを転移させるはずだったのに――
「……あっ……家ごと……転移しちゃった……」
アイラ師匠はそう言って、顔面真っ青のまま、ばたりと倒れた。
「ダメだ……魔力、枯渇……ここまで来たら、大丈夫だから……おやすみ……」
そのまま、気絶。
レオ兄は瀕死からやっと回復しかけって時で動けないし、俺はパニックだし。
あのとき助けてくれたのが、彦さんと織さんだった。
「ギャラン、落ち着け。まずは師匠の回復を優先だ」
「レオニダス様の手当ても続行。呼吸のリズムが不安定です」
……いやほんと、あの二人、何者なんだ?
たまに異常に強いし、師匠の言うことは絶対っぽいし……まあ、いいか。
そんなこんなで、今も俺たちはこの家に住んでる。
家の中は、ほとんど変わらない。
俺に割り当てられた部屋もそのまま。
違うのは――
家の外が、ダンジョンの最上階ってこと。
そう。俺たちの今の住処は、あの「賢者の塔」の最上階。
外に出れば、すぐそこに神殿があって。
かつて賢者の石が安置されてたっていう、曰く付きの場所。
塔そのものが、“賢者の石を守るため”に作られてるらしい。
しかもこの塔、ヤバいくらい強い。
「師匠二人がかりでも、階層ボスに勝てるかどうか」とか、師匠は言ってた
……いやほんと、どういうバランス設定だよ。
でもそのおかげで、今のところ、追手は誰ひとり来ない。
アイラ師匠は、毎日ダンジョン探索したり、罠の解除方法を教えてくれたり。
「ちょうど戦闘訓練にいい」って、レオ兄と一緒にダンジョンに連れて行かれる日もある。
俺はまだ10階が限界。レオ兄ですら、今の最高到達が20階だ。
最上階のこの家……下、まったく見えないんですけど。
で。師匠は相変わらず、全然年を取らない。
「……真面目な話、アイラって……綺麗だよな」
この前、レオ兄がそんなことをぼそっと言って、顔を真っ赤にしてた。
……いや、確かに美人だと思うけどさ。
俺にとっては、それより“知識モンスターな魔女”って印象の方が強い。
最近は、俺もレオ兄も“適齢期”ってやつに片足突っ込んできたみたいで……
気づけば、昔みたいに「僕」って言わなくなってた。
今日の授業は、魔力治癒「キュア」と、生活魔法「クリーン」、それから転移魔法陣の描き方。
レオ兄も、体はすっかり良くなって、いまは毎日ダンジョンでバリバリ雷撃とか飛ばしてるし……
俺たち、少しずつだけど――前に進んでるんだと思う。
ここで、ちゃんと強くなって。
いつかまた、あの灯霞に帰れる日が来るまで。
……たとえ、どれだけ時間がかかったとしても。




