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19 誰も勝てない それなら

《これまでのあらすじ》

バーベラの花が咲き、町は妖力の異変で混乱に包まれる。

ギャランは師匠アイラと共に結界の補修と修行に追われるが、

レオニダスが倒れ、瀕死の重体に。

アイラは必死に治療し、ギャランの妖力を借りて命をつなぐ。

しかし、レオニダスは「母が目の前で死んだ」と涙ながらに告げ、

彼らを取り巻く状況がさらに深刻なことを示す。


ギャランに声をかけながらも動揺しているのは私もおなじ

黎凰が――死んだ?


視界がぐらりと揺れた。

アイラは壁に手をつき、呼吸を忘れる。


「……嘘……」


頭が真っ白になる。


あの黎凰が?

あの人が……負けるなんて……!


胸の奥が凍りつく。


バーベラで感じた、魔法陣

レオを救い出すとき、肌に突き刺さったあの殺気


(……まさか、あれが……!)


指先が震えた。


私でさえ――正面からぶつかれば、無事じゃ済まない。


「……ダメだ……!」


こんな状態で、瀕死のレオと、未熟なギャランを抱えて戦えるわけがない。


(逃げるしかない……!)


とにかく、生き延びる。


「ギャラン!」


ふいに彼の腕をつかむ。


「立てる? 無理なら私が飛ばす」


涙目のまま、ギャランは必死にうなずいた。

レオニダスを抱きかかえ、震えながらも踏ん張っている。


(……ほんと、強くなったじゃない……)


一瞬だけ胸が熱くなりかけた。でも今はそんな場合じゃない。


「行くわよ!」


魔力を一点に集中させる。

あの“気配”が、すぐそこまで迫ってる。

迷ってる暇なんてない。


(行くなら――あそこだ!)


「彦! 織! ついてきて!」


遠くで結界を張っていた二人が、慌てて駆け戻ってくる。


「どちらに向かいますか!」


「――賢者の塔」


言いながら、自分の声にゾクリとする。


忘れたい。二度と近づきたくない。

でも……今は、そこしかない。


(過去あの場所に行けたのは、私と……あの人だけ)


しかも、あの人ですら一人じゃ辿り着けなかった場所。


私は、あの頃……

“同等の力”を持つ弟子として、何度も付き添わされて……


胸の奥が焼けるように痛む。


(……動揺してる場合じゃない)


私は杖を構えた。

普段は使わないこの杖。――けど、今は必要。


「……私の中にある賢者の石よ。その血を使い、元いた場所に我らを戻せ」


杖の先がカチリと動く。

刃が出る。

指先を迷いなく切った。


鮮血が、跳ねた。


指から、掌から、ぼたぼたと賢者の石を含んだ血がこぼれていく。


もっと、もっと……足りない……!


私は血で魔法陣を描く。

腕を震わせながら、止まらず、ためらわず。


光が走った。

地面に広がった陣が、まばゆく輝き始める。


「みんな、入って!」


レオニダス。

ギャラン。

彦。

織。


全員を魔法陣の中心に押し込む。


最後に自分も踏み込んで――


「転移!!」


叫んだ瞬間


私たちのいた魔女の家は、まるで最初から存在しなかったかのように――

音も、気配も、形すら残さず――跡形もなく、消えた。


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