13 百年に一度の厄災 オーベラ開花
《これまでのあらすじ》
ギャランの訓練で黎凰は腕を失う重傷を負う。
アイラは迷いなく治癒魔法で黎凰の体を元に戻すしたが、黎凰は、ギャランの未来を思って不安を漏らす。
アイラはそれを静かに否定し、かつて自分が不死の身体にされた過去を語りながらも、「それでも生きる方がマシ」と断言する。
倒れたままのギャランの頭を撫でながら、彼女はこの子の生きる力を信じて、そっと微笑んだ。
あれから、もう数日が経つ。
あの夜、気がつけば母さんはなぜか腕が復活していて、師匠とレオ兄と母さんで、部屋の血痕と格闘していた。
「起きた? ギャラン君も、はい、これ使って」
目を開けた瞬間、アイラ師匠から雑巾を手渡され、反射的に受け取ってしまったのは、いい思い出。
「魔法で一気にきれいにしてもいいんだけどね。これだけ派手にやらかすと、まずは手作業で汚れを落とさないと、あとが残るのよ。これ、掃除と洗濯の基本ね」
そんな師匠の言葉に、涙ぐみながら母さんと師匠に飛びついたっけ。
……あー、思い出すだけで顔が熱くなる。
でも。
あの日から、確かに何かが変わった。
左手に魔力、右手に妖力。
力がわかると、両方を同時に操れる感覚が一気にできるようになった。もちろん、どちらの石も満タンにできる。
あんなに苦労したのが、嘘みたいだ。
ちなみに、レオ兄は相変わらず妖力石を握った瞬間に粉砕してるけど。
レオ兄ができないこと、自分ができるのはちょっとうれしい
「ドアから入るなら歓迎よ」
そう言って、師匠があの夜開通したドアも、レオ兄のおかげで毎日元気に稼働中だ。
兄は変わらず、母さんとの距離は一気に縮まり容赦なく僕にも鉄拳が来る、師匠はいつも通り。そんな状況が嬉しい。
……だからこそ、油断していたのかもしれない。
灯霞の広場に、一輪の花が咲いた。
百年に一度咲くという、人間と妖を狂わせる“オーベラ”だ。
「お店どころではないですね。せっかく人間のみんなも楽しみにしていたのに」
織さんが嘆く。
100年に一度の花が咲くのを楽しみに観光客が連日おとずれていたはずなのに。
オーベラが咲いた瞬間から、何かがおかしくなった。
広場に立ちこめる、鼻をつく強烈な悪臭。
空中をただよう紫色の花粉。
花粉が風に乗るたび、街全体がどこか紫がかって、まるで霧に包まれたようにぼやけて見える。
「……なまじ百年に一度って言われてるから、誰も伐採に踏み切れないんですよね」
彦さんも同意する。
オーベラの花は、正直“花”というより“木”に近い。
茎はまるで木の幹みたいに太くて、普通のノコギリじゃ歯が立たないレベル。
「見てきたわ。できれば人間時間に顔出したくなかったんだけどね」
アイラは、どこか不機嫌そうに言いながら、ため息をつく。
当然だ。
師匠は、年を取らない“不老”の存在。
一度人間時間で目立てば、すぐに「あの人、全然老けないんだけど?」なんて噂が立つ。
何年かしたらまた人間時間から消えないといけなくなるから、ほんと、面倒くさいの
アイラが、ひときわ強く眉間にしわを寄せた。
「今回のバーベラなんか変なのよ。普通ここまで花粉を撒き散らさないはずなんだけど。成長もえらく早いわ」




