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《完結》魔女は秘密を抱えながら弟子と最強タッグを組む  作者: かんあずき


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12 死なない魔女がくれた強くなる理由

《これまでのあらすじ》

ギャランは魔力と妖力の制御に苦戦し、訓練用の妖力石も壊してしまう。

母・黎凰が現れ、遠慮しつつも危険を承知でギャランの妖力を直接受け止める訓練を提案。

導線を通して妖力を受けた黎凰の手は血を流し吹き飛ぶが、その瞬間、ギャランは初めて妖力の流れを視認する。

しかし代償はあまりにも大きかった。


「ひどい……! 二人ともひどすぎ!! せめて事前に話してくれよ……! ギャラン、大丈夫か……!」


涙目で叫ぶレオニダス。

その隣では、完全に白目をむいて気絶したギャランが、ぐったりと倒れていた。


そしてその横で――黎凰が、静かに本来の姿に戻っていた。


白と金の雷雲のようなふわふわの体毛。

青い瞳の奥にちらちらと走る金色の稲妻。

空気が微細な放電でぴりつき、バチバチと小さな音が断続的に響く。


(……本当に、“妖”だな)


アイラはちらりと横目で雷獣の姿を見やり、深くため息をつく。


つい数分前。

ギャランの暴走した妖力に耐えきれず、黎凰の腕が吹き飛んだ。

壁や床、天井まで……赤い飛沫が四方に広がり、あたり一面が鉄くさくなる。


倒れるギャラン。

叫ぶレオニダス。


アイラはその場で短く呪文を詠じた。


「――復元」


パチン、と乾いた音が鳴る。

光がはじけ、千切れたはずの黎凰の腕が一瞬で元通りになった。


ただし――


「……まあ、部屋と服は、この有様だけどね」


アイラは肩をすくめる。

部屋中、そして黎凰自身の白い毛並みまでもが、まるでスプラッタ映画のセットのように真っ赤に染まっていた。


「久々に……全身スプラッタ塗装」


「ふふ……懐かしいわ」


黎凰が苦笑し、ふわりと大きな尾を一振り。

固まった血が粉じんとなって舞い、空気に生臭さが残る。


「若い頃はね、腕や足がなくなるなんて、しょっちゅうだったのよ」


「……あー、そうだったわね」

アイラが小さくため息をつく。


「無鉄砲に突っ込んで、気づいたら血だらけで私んとこに転がり込んできて……ほんと、何回治したことか」


「……本当に。いくら感謝してもしきれないわ」


黎凰は、どこか懐かしむように微笑んだ。


その瞬間――


――ゴゴゴゴゴ……!!


外で雷鳴が立て続けに轟く。

青く染まった夜空を、何本もの稲妻が走っていく。


「うわ……灯霞、何本落雷食らってんのこれ」

アイラは額を押さえてうめく。


(まあ……雷獣だし。怒ったり不安定になると、これくらいじゃ済まないわよね)


アイラは床に倒れたままのギャランに目を向ける。

雷鳴をものともせず、彼はまだ深く眠り続けていた。


「……この子、本当に……ちゃんと生きていけるのかしら」


ぽつりと、黎凰がつぶやく。


「このまま半妖として、ずっと……こんなふうに、傷つき続けるのかと思うと」


その声には、ただ母としての、どうしようもない不安がにじんでいた。


レオニダスが、はっと顔を上げる。


「母さん……」


黎凰は、何かを言いかけて、言葉に詰まる。


その時――


「……あんた、まさかギャランに“死ねば楽になる”なんて考えてないわよね?」


静かに、けれど鋭くアイラが割って入る。


黎凰が、驚いたように目を見開く。


「ち、違う……! そんなこと、思ってるわけない……!」


「ならいいわ」


アイラはひと息つき、しゃがみ込んでギャランの髪をそっと撫でる。


「でもね……」


ふっと笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「私は、どんなに酷い怪我をしても、どんなに身体が焼けても、どんなにバラバラになっても……次の日には、また生きてるのよ」


レオニダスが、はっと息を呑む。


「……それって、どういう……?」


アイラは一瞬、言葉を選ぶように視線を泳がせ、それから苦笑混じりに答えた。


「私の体の中にはね……“賢者の石”が埋まってるの」


「――賢者の、石……?」


「とあるバカがね、私を実験台にして無理やり押し込んだの。おかげで私は、不死身になった」


それは冗談でも大げさでもない。

アイラの声は静かで、でも、どこか遠いものを見るようだった。


「生きてるのが、いつも楽しいわけじゃないのよ。死ねたら楽なのにって思った夜なんて、いくらでもあったわ」


黎凰は、息を呑んでアイラを見つめた。

レオニダスも、胸の奥が締めつけられるような痛みを覚えた。


けれど、アイラはくすりと笑って言った。


「だから、私は知ってるの。生きてるだけで大変な日があることも。……それでもね、死ぬより、絶対にマシ」


彼女はもう一度、ギャランの頭を撫でた。


「この子はまだ、生きる力を手に入れてないだけ。これから強くなる……絶対に」


その声には、不思議な重さと優しさ、そしてひとかけらの願いが込められていた。


外では、さらに一段と強い雷鳴が鳴り響き、夜空を裂いていた。


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