表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/63

9 妖界の母と二人の息子

《これまでのあらすじ》

半妖の少年ギャランは、力の暴走をきっかけに人間界の最強魔女・アイラの弟子となった。

朝は畑仕事、昼は薬屋の手伝い、夜は魔力と妖力の制御訓練。

兄レオニダスや店の仲間たちに振り回されつつ、

「自分の力」と「居場所」をつかむため、ギャランの修行生活が始まる――。

しばらくして。

夜空にきらりと流れ星、かと思いきや、それはまさに《彦》の帰還だった。

「お届けしてまいりました。了承いただきました」

軽やかな口調でそう報告すると、彦はふっと静かに着地する。



「最初からこっちに頼めば良かったわね」

アイラは肩をすくめながら、くるりと振り返った。

「じゃ、ふたりとも。ちょっと行くわよ」

そう言って、レオニダスとギャランに声をかけると、すたすたと部屋の奥のドアへと向かった。


「えっ、今からお出かけ?」

思わずギャランが聞き返す。

外を見れば、赤提灯はすでに消えていた――つまり《青提灯》の時間、妖たちが目を覚ます《妖時間》の始まりだ。

ギャランにとっては、まだあまり良い思い出のない時間帯。

あの世界では“半妖”というだけで冷たい視線を浴びることもあった。

嫌がらせこそ減ったとはいえ、胸の奥にはずしんと重たい不安がこびりついたままだ。


「ううん、下には降りないから安心して」

そう返したアイラは、ドアの前で立ち止まり、右手を扉の方向にかざす。

左手には、淡く光る魔法陣がふわりと出現し、それをなぞるように右手の“魔法ペン”でなにやら描き直していく。

魔法陣の線が完成するやいなや、パチンと音がして、ドア全体がピンクの妖力と黄色の魔力をまとい――


「よし、開通っと♪」


ぱちんと指を鳴らすと、魔力の光が収まり、そこには一見すると“普通の扉”が現れた。

しかし、その向こう側には“普通じゃない空間”が広がっていることを、ギャランにはなんとなく察せられた。


そして次の瞬間。


「ヤッホー! 黎凰れいおうちゃん、来たよーっ!」


満面の笑みでアイラがその扉を開け――スタスタと中へ入っていく。


「……か、母ちゃん……!?」

「……母さん……」


先に続こうとしたレオニダスとギャランの顔が同時に引きつった。

レオニダスは「しまった!」という顔をし、ギャランは目を見開いたまま固まっている。


(えっ、いま“母さん”って言った!?)


「んも〜〜、アイラちゃん。もっと早く来てくれると思ってたのにぃ。連絡、遅すぎ〜!」


そう言って頬をふくらませたのは――レオニダスとギャランの“母”にして、この家の主、黎凰れいおうだった。


その見た目は、年齢不詳の艶やか美女。だが口を開けば、まるで旧友のようなノリの良さである。


「ごめんごめん、状況整理と問題点の洗い出しが基本でしょ? 今日は急だったから何も準備してないけど、明日は人間界で“招き猫の白甘酒”買ってくるから」


「え〜〜〜〜っ! あれ超ひさしぶり〜〜! 飲みたい飲みたい! ほら妖界のお酒って、猫はまたたび、虎もライオンもネコ科だから“雷獣もまたたび酒でいいだろ”みたいな雑なノリじゃない? そうじゃないのよー!」


「わかる〜。フルーティーなのとか、香りの良いやつ、欲しくなるよねぇ〜〜!」


止まらないガールズトーク。

視界の端で、レオニダスとギャランが石像のように直立不動で固まっていた。


(……話、入りづらすぎる)


ギャランはそっと隣の兄に目線を送るが、レオニダスも目を泳がせたままだ。


と、そのとき――


「そういえばさ、アイラちゃん? なんでレオニダスがここにいるの? まさか……嫁にでもなりたいとか?」


黎凰がニヤリと笑って振り返る。


「なるかいっ!」


即答でアイラがツッコむ。


「このボンクラがね! ギャラン君を“心配してる”とか言いながら、毎日うちに夜這いしてくるのよ!? 結界までぶっ壊して! しかも、毎晩激し――」


「やめろおおおおおおおおおっ!!!」


レオニダスが耳まで真っ赤にしながら叫んだ。


「なんですってぇぇぇぇぇ!!?」


今度は黎凰が雷のような声で応戦。


ゴゴゴゴゴ……と、背後に見えない圧が立ち上るのを感じて、ギャランはそっと二歩、下がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ