エピローグ
タイトルをより作品の雰囲気に合う名前にしたので、これからも楽しんでもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします!
山あいにひっそりと灯る町がある。
その名は「灯霞」。
夕暮れとともに濃い靄が降り、石畳の坂道や赤茶けた屋根が、まるで夢の中の景色のようにぼんやりと霞んでいく。
かつて、この町は金鉱で賑わっていた。
坑夫たちが行き交い、武器屋や錬金術師がポーションを売り、怪我や病気は魔女が治療していた。
今は金鉱も閉ざされ、人の姿は減ったが、灯霞でしか手に入らない食材や資源を求めて、今もなお人が訪れる。
夜が訪れると、町中の提灯が赤く灯る。
薄い油紙越しに揺れる灯りは幻想的で、どこか懐かしい気配を漂わせていた。
屋台からは湯気が立ち上り、甘辛い匂いと人々のざわめきが混じり合う。
だが、赤い提灯がふっと消えた瞬間、町の空気はがらりと変わる。
店は一斉にシャッターを閉じ、人はまるで合図でもあったかのように、急いで家路につく。
町の鐘が静かに鳴り響き、山へ向かうバスも電車も止まる。
人の住まう町とは思えない静寂が、灯霞を包み込む。
そして――
──青提灯の時間が始まる。
赤い灯りに代わり、静かに青く光り始める提灯。
閉ざされた店のシャッターが音もなく再び開き、並ぶのは人間ではない者たち。
妖たちの夜が、ここから始まるのだ。
並ぶ品は魔力草で作った大福や、蜜に漬けた巨木豆など不思議なスイーツ。
その味を求めて、夜ごと長い列ができる。
灯霞の裏通りには、もうひとつ秘密の道がある。
入り組んだ路地とは違い、魔女が張り巡らせた結界の迷路だ。
誰もが簡単にたどり着けず、妖すらも近づけない。
その先にあるのは、魔女の家。
苔むした石階段を上り、重なる結界と魔法陣に守られた場所。
彼女の許しなくしては決して入れない。
だが――
そんな結界をあっさり破り、現れた者がいる。
父は“闇夜神”と呼ばれる妖の頂点に立つあやかし。
母は、唯一彼が愛した人間だった。
二人の間に生まれた、世界にただ一人の半妖。
夜の力をその身に宿す少年が、静かに魔女の扉を叩こうとしている。