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エピソード_56

ヴィクトールは書斎の椅子に座り、手には一通の手紙を握りしめている。

「レヴィ、よく来てくれた」

アイリーンからの手紙が届いた夜、レヴィは彼に呼び出された。


「アイリーンから届いた手紙のことだが…」

その名前が口にされた瞬間、レヴィはヴィクトールへ目を向けた。そして、表情を注意深く観察する。

ヴィクトールは手紙を机の上に置き、深いため息をついた。


「君には伝えておくべきだと思ってな」

言葉を選ぶように、ヴィクトールは慎重に話を続けた。

レヴィは表情を変えることなく、静かに次の言葉を待つ。


「彼女は僕と君に謝りたいそうだ」


ヴィクトールがそう言うと、レヴィの顔が一瞬引き攣った。

口元が微かに震え、握りしめた拳が膝の上で小さく震動する。

しかし、ヴィクトールは窓の外を見つめており、彼女の変化に気づく様子はなかった。


「今度、僕の知り合いの方の家でパーティーがあるんだが、一緒に来てほしいと言っていた」


しばらく沈黙が続いた。

レヴィは内心で激しい感情の嵐と戦いながら、表面的には冷静さを保とうと努めていた。


「フォンテーヌ家へ戻る準備をしているところ申し訳ない」

ヴィクトールは手を額に当てながら続けた。

「君にこんなことを頼むのは筋違いだとは思うが…断っても…」


「いえ、同行させて下さい」


レヴィの返答は即座だった。ヴィクトールは眉を上げ、彼女の顔を見つめる。


「本当に構わないのか?君にとって彼女は…」


「構いません」


レヴィの表情は、氷のように冷たかった。

「むしろ、お役に立てれば幸いです」

ヴィクトールは少し戸惑ったような表情を見せたが、やがて頷いた。

「…わかった。こちらで手配を進めよう」

「ありがとうございます」

レヴィは深く一礼した。そして静かに書斎を後にする。


重い扉が閉まると同時に、レヴィの表情から仮面が剥がれ落ちた。

廊下の薄暗がりの中で、彼女の目は危険な光を放っていた。


レヴィが自室へ戻ろうとしていると、角の向こうからエドワードが現れた。

彼女は廊下をゆっくりと歩き始め、エドワードがそれに並ぶ。

「あの女は私へ謝りたいそうよ」

レヴィは冷ややかな顔で言った。

「パーティーに来てほしいなんて図々しい女。自分がこの家まで来て頭を下げればいいものを」


(レヴィ、お前も舞踏会に行くんだな。俺と同じように。)

エドワードは内心でレヴィの行く末を感じていた。

自分もかつて同じようにアイリーンに翻弄され、最終的には彼女の策略に陥れられた。


「どうするんだ?」

エドワードは慎重に尋ねた。

「手ぶらで行くわけではないんだろう」

レヴィは立ち止まり、振り返った。暗闇の中で彼女の顔が浮かび上がる。


「もちろんよ。あの女に手土産を持っていってあげるわ。」

レヴィの顔は悪魔のような恐ろしさを帯びていた。


「もう二度と生意気なことなんてできないようにね」


レヴィの目に宿る狂気を見た今、彼は確信していた。

パーティーの夜、何かが起こる。そして、それは決して美しい結末ではないだろう。

エドワードは震えを抑えながら、この復讐劇がどのような結末を迎えるのかを想像した。

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