表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/61

エピソード_52

「詳細は後で報告する。今は私の部屋で確認したい」


それを聞いた瞬間、レヴィの心臓が激しく鼓動を始めた。


ヴィクトールは、手紙を胸の内側に仕舞い込み、大股で自室へと向かった。

彼の後をエドワードが慌てて追いかけていく。

残された従者たちは、まるで嵐が過ぎ去った後のように、しばらく立ち尽くしていた。

やがて一人、また一人と持ち場に戻り始めたが、誰もが興奮を隠せずにいた。


「今更なんの手紙かしら?」

「きっと復縁の手紙よ。みっともなく旦那様に縋り付いているのだわ」


レヴィだけが、その場に釘付けになったまま動けずにいた。

(——あの女が、手紙を?)

血の気が引いていく感覚を覚えた。


アイリーンは何を書いてきたのだろう?計画がバレたのだろうか? 

彼女の頭の中で、様々な可能性が駆け巡った。


他の侍女が言うように、ただの未練がましい手紙かもしれない。

もしかしたら、単なる近況報告かもしれないし、必ずしも自分にとって不利な内容とは限らない。

しかし、もしもアイリーンが真実を知っているなら——レヴィが彼女を陥れたことを知っているなら——この手紙は自分にとって致命的な内容かもしれない。


(…今更一体何を?)


レヴィは震える手で胸を押さえた。

冷静になれ、と自分に言い聞かせる。


一体、アイリーンは今どこで何をしているのだろうか。

屋敷を出て行ってから、彼女の行方は知れなかった。

あの我が儘で世間知らずの令嬢が、一人でどうやって生きていけるというのか。

金も地位も失い、頼る相手もいない——そんな状況で生き延びられるはずがない。


それなのに、今更になって手紙を寄越してくるなんて!


レヴィの顔は青ざめていった。

せっかく順調に進んでいた計画に、今更邪魔をしてくるつもりなのか。

ヴィクトールの書斎からは、まだ何の音も聞こえてこなかった。


「おい、いいか。」


どうしたものかと考え事をしていると、背後から声をかけられ、レヴィは振り返った。

そこにはエドワードが立っていた。

しかし、いつもの生意気な態度はどこにもない。むしろ、珍しく困惑した表情を浮かべていた。


「ちょっと来い」


エドワードは周囲を見回すと、人気のない廊下の奥へとレヴィを手招きした。

何かただならぬ様子に、レヴィは従った。


薄暗い廊下の角で、二人は向かい合う。

エドワードは懐から何かを取り出すと、レヴィに差し出した。


「これ、お前宛の手紙だろう?」


それは一通の手紙だった。


「——まさか、あの女から私宛に!?」


レヴィは思わず声を上げそうになったが、エドワードが慌てて人差し指を唇に当てて制止した。


「ああ。旦那様宛の手紙と一緒に届いたんだ。見つかったら騒ぎになると思って隠したんだよ。下手なこと書かれて、旦那様に読まれたら困るだろう!」


エドワードの声にも焦りが滲んでいた。

当然だろう。アイリーンを屋敷から追い出したことがバレれば、この男も同罪なのだから。


「あの女…!」

レヴィは手紙を受け取りながら、歯ぎしりした。

「一体何を考えているというの!」

手紙の重みが、妙にずっしりと感じられた。まるで鉛のように重い。

その中にどんな言葉が書かれているのか、想像するだけで胃が痛くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ