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エピソード_47

アイリーンは息を呑んだ。

ヴェロニカの言葉が頭の中で反響し、その意味を理解しようと必死になる。

唇が何度も動いたが、声にならない。まるで喉に何かが詰まったかのように、言葉が出てこない。


(そう考えると、辻褄が合う…。でも、本当にそんな理由で…?)


アイリーンの脳裏にレヴィとの日々が鮮明に蘇った。


朝の身支度。髪を梳かす静かな手。

小さな失敗に落ち込むと、決して叱らず、淡々と片付けながら、背中をそっと押してくれたこと。

熱を出した夜、手を握っていてくれたこと。


あの日々が――あの穏やかな、守られていた時間が。

もしも、全て“仕組まれたもの”だったとしたら……?


「……一体どうして? 何のために……?」


震える声でそう呟いたあと、アイリーンはそれ以上言葉を紡げなかった。

口は開いたまま、目だけが宙を泳ぐ。

胸の奥から込み上げてくる感情に、眩暈すら覚えた。


けれど――その混乱の奥で、何かが静かに芽吹く。


(…真実を、知りたいわ。)


絶望の中で、本当のことを知りたいという気持ちが、静かに湧き上がってくる。

レヴィが本当は“何者“で、何のために傍にいてくれたのか。

何かを壊すためだったのか、それとも……別の理由があったのか。


今は、何もわからない。だからこそ、知りたいと思った。

嘘であったとしても、全部がそうだったとは思いたくない。

そしてそれを確かめるには、ただ一つ、真実に、近づくしかないのだ。


「……ヴェロニカ様。」


アイリーンは顔をあげ、ヴェロニカの方へ向き直った。

窓から差し込む午後の光が、アイリーンの燃える瞳を照らしていく。


「私、真相を知りたいです。レヴィがどうして私のことを陥れたのか。本当はどうして私たちの家に来たのか。」


アイリーンははっきりとした声で言った。

その目には、まだ不安が残っていたが、それ以上に強い意志が灯っていた。


「そうね、私もそう思っていたわ」

ヴェロニカは微笑み、椅子の背にもたれながらティーカップを揺らした。


「正直に言うと、ずっと気になっていたのよ。今言ったことは、所詮は憶測にしかならないの。本当のことは本人に聞かなければわからないわ。」


ヴェロニカは机に置かれた手紙を引き寄せながら続けた。


「どうする?エドワードを使ってレヴィへ探るという手もあるけれど。」


それを聞いて、アイリーンは少し考え込んだ。


「それも良いと思います。…でも、レヴィはすごく用心深い侍女なんです。エドワードから無理に接触しても警戒されるだけかもしれません」」


長年一緒に過ごしてきた彼女だからこそ、レヴィの性格をよく理解している。

ヴェロニカは、ふむ……と声を漏らしながら、アイリーンの横顔を見つめた。


「そう。なら、シンプルね。直接本人に聞くしかないわ。」


そう言ってヴェロニカは片目をウインクした。


「ま、またですか…?」


エドワードと直接対峙した時のことを思い出だして、アイリーンは苦笑した。

けれどその顔は、どこか晴れやかだった。


「でも、それが一番早いかもしれません。ヴェロニカ様、私に考えがあります。」


アイリーンは急に真剣な顔になり、ヴェロニカを見つめた。


ヴェロニカはしばらく黙っていたが、ほんの少し目を細めて、やがて破顔した。


「あら、聞かせてもらおうかしら。アイリーンの考えとやらを!」

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