エピソード_27
「まさか……。」
ヴィクトールの声が震えた。
彼は、アイリーンの姿が目に入った瞬間、驚愕の表情を浮かべたのだった。
(仮面をつけているのに……よくわかったものね。)
アイリーンは心の中で驚きながらも、ヴィクトールが次に何を言うのかをじっと待った。
しかし、ヴィクトールは言葉を失い、じっと二人を見つめたまま動けずにいる。
彼女が今ここにいることに動揺しているのか。
それとも、隣にいる男との関係に驚いているのか。
しかし、ヴィクトールの取り巻きの女性たちは互いに顔を見合わせ、何が起こっているのか分からずに戸惑っている様子だった。
そんな沈黙を、アイリーンの隣にいた男が破る。
「私のパートナーに何か?」
穏やかな口調だが、その声には警告のような響きが滲んでいた。
しかし、その言葉を聞いたヴィクトールの表情は一変する。
「パートナーだと……?」
彼の瞳が怒りに燃え上がり、アイリーンと男を交互に睨みつけた。
顎を強張らせ、拳をぎゅっと握りしめる。
その肩が小さく震えているのを、アイリーンは見逃さなかった。
(えっ…一体どうしたの?)
ヴィクトールの視線には、嫉妬と怒りが滲んでいた。
その剣幕に、そばにいた女性たちは怯え、気まずそうにその場を離れていく。
「ええ。そうですよ。彼女は僕のパートナーです。」
ヴィクトールの様子にも怯えることなく、男は落ち着き払った態度で頷いた。
「しかし、お知り合いだったとしても、今日は見て見ぬ振りをするのがルールでは?」
男は余裕たっぷりの表情でヴィクトールに笑いかけた。
「この女性とあなたがどんな関係であろうとね。」
「ふざけるな……!」
その言葉が、ヴィクトールの苛立ちをさらに募らせる。
低く吐き捨てるように言いながら、ヴィクトールは一歩踏み出した。
その動きには抑えきれない感情が滲んでいる。
「…アイリーン。」
ヴィクトールが彼女を見て、低い声で言う。
アイリーンは思わず息を呑んだ。
「おっと。」
隣の男が肩をすくめ、落ち着いた足取りでヴィクトールとアイリーンの間へ割って入る。
その動作には、一切の焦りがなく、むしろ余裕すら感じられた。
「名前を聞くのは御法度ですよ。ご存じありませんか?」
男は微笑を浮かべながら、淡々と言葉を紡ぐ。
その様子を見たヴィクトールの表情は歪み、手には拳を握りしめていた。
「邪魔をするな。」
ヴィクトールの低い声が響く。だが、男は一歩も引かない。
しかし、次の瞬間、ヴィクトールの手がアイリーンの細い腕を掴んだ。
「…っ!痛っ…。」
「一緒に来るんだ!」
ヴィクトールの気迫に、アイリーンの体が無意識に強張る。
その力は強く、決して逃がさないという強い意思が込められていた。




